研究概要 |
本海外学術研究は,太陽エネルギーを変換固定する光合成の分子機構解明のための研究領域でのヨーロッパEC諸国の研究グループと我国の研究グループの共同研究を推進するために計画・実施された. このため,第一年次及び第二年次前半には,共同研究の実施と並行して,この研究領域での効果的な共同研究体制のあり方の調査を,我国の研究者をEC諸国へ派遺して行った. 本計画での共同研究の対象領域は,植物が営む光合成の分子機構の解析とし,研究計画の立案は,対象領域についての国内研究者からの提案を,9名からなる計画委員会で検討,選択して行った. 従って,本研究の中心的分担者以外に,各年度毎に異なった多くの分担者の参加をえて進められた. 第二年次及び第三年次においては,国内研究者の派遺による共同研究と共に,EC圏の研究者を招へいして,国内での共同研究も実施された. 第一年次は,4件の共同研究がフランス,西独のグループと行われ,第二年次には,派遺による共同研究5件,招へいによるもの3件,合計8件がフランス,西独のグループと行われた. 第三年次は,派遺 件,招へい3件が,フランス,西独に英国のグループを加え実施された. 共同研究の内容は大きく三つの方向に区分される. 第一は光エネルギーの捕獲・変換の分子機構であり,光エネルギー捕獲に関しては,基生研と西独マールブルグ大学,ミュンヘン大学のグループとの間でラン藻光捕獲分子系の構造解析及び分子内エネルギー移動の解析が行われ,新知見をえつつある(第二,三年次). 光エネルギー変換分子系については,岡山大学とフランスCEAグループが光化学系IIたん白複合体について共同研究を行い,初発光化学反応である電荷の分離がおこる場を形成しているたん白分子の同定に世界ではじめて成功した. これは,日本側のたん白精製技術とフランス側の反応測定技術の協調がもたらしたもので,本海外学術研究の重要性を成果で示した代表例である. 又,光化学反応中心Iたん白複合体についても,帝京大学のたん白精製技術とCEAの反応解析技術の協調による初発反応をめぐる機応因子の同定に成功したのも,もう一つの例である. この他,酸素発生機構の解析もフランスのグループと行われ,更に,西独,英国のグループとも生化学的な共同研究が4件行われた. 第二は炭酸固定をるぐる方向である,主として西独のグループとの共同研究が合計 件行われた. この場合にも,日本側の得意とする手法,又日本で見出された問題点と,西独のそれぞれのグループのつつ利点とが協調して,炭酸固定代謝とエネルギー変換系の共役機構,炭素代謝中間物質の移動機構,又,炭酸固定と光呼吸の関連に多くの新知見をえた. そして,その多くは,情報交換のもとに共同研究作業が両者において進められている. 第三には,光合成が営まれている葉緑体の形成にかかわる方向で,フランスのグループと,名古屋大学,基生研,東京大学の各グループがそれぞれ,原色素体からの分化にかかわる分子生物学的研究,葉緑体チラコイド脂質成分の合成酵素,脂質輸送たん白の生化学的究を共同で行った. この内2件は,国内で行われた. それぞれ新知見をえると同時に,他の場合と同様,今後の永続的な協力体制の基礎作りが行われた. 過去3ケ年の共同研究は,すでに29編の原著論文を生み出し,編の論文が公表へ向けて作製されつつある. 昭和61年度,62年度に行われた共同研究の多くはなお研究進行中にあり,今後論文として公表される成果は更に増加することはうたがいもない.
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