研究概要 |
原子力の平和利用の発展において低レベルの放射線の人体に対するリスクを正確に評価することは不可欠である. その最も信頼される基礎データは原爆被爆者のものであるが, この集団の被曝様式は1回の比較的大線量のそれであり, 原子力平和利用の際の公衆の被曝様式は低線量反復被曝である. この点で, 過去にこの様式のかなりの被曝があったと考えられる診療放射線技師集団はリスク評価の対象集団としてより適切であり, 我々はすでに数年間の健康, 死亡調査を行ない, 国際的な評価も受けている. 一方, 中国においても, 診療放射線作業従事者の大規模な調査研究が行なわれているが, 癌死亡リスクは我々の値の10倍を示し, その理由は線量が我々の10分の1と低いためと考えられる. 中国も線量を中心に再評価を計画し, 早急に我国と共同研究を開始したいとの要請があり, 本研究が計画された. 本研究によって, 線量推定の精度が向上すれば, 我国の成果と合わせて国際的なリスク評価研究に寄与することは明かであり, 生活環境や遺伝的な因子の異なる中国と比較することにより, 放射線発癌の機構解明にも寄与するものと考えられる. 中国は, 1979ー83年に全国規模の医用診断X線作業従事者の影響調査を行い, 全癌羅患絶対リスクは55.GX10^<ー6>/rad/年であると発表した. 一方, 我国の放射線技師の調査では, 全癌死亡絶対リスクは, 5.2X10^<ー6>/rad/年で, 中国のリスクが, 非常に高いことが判明した(表1),そこで, 中国側の強い要請もあり, この理由を解明するベく共同研究が行なわれた. 昭和63年2月1ー5日, 日本側班員が訪中, (1)日中線量推定方式の比較, (2)疫学調査集団と線量推定対象集団の不同一性, (3)線量推定における新技術導入を検討した. さらに, 3月14ー21日, 中国側班員が訪日, さらに詳しく検討した. 中国の線量推定方法は基本的に我国の方式と違いはないが, 線量調査対象集団と疫学調査対象集団とは別に設定され, しかも胸部透視を中心とした診断方式の複雑さ, X線装置, 作業量, 作業環境の防護面での多様性が明かとなった. また, 被曝線量は調査時の500人のもので, 作業量当り被曝量(P値)を出し, これに年代別, 作業環境別に規格化された作業量と防護係数を掛けて被曝量を過去に逆上って推定する点に不確実さが認められた. 線量推定集団と影響調査集団の比較が表2に示されている. 作業期間の分布に大差はないが, 性比, 年齢構成は不明である. また, 疫学調査は戸籍が整備されず, 死亡診断書の制度がないことから医療記録の正確な都市の病院を中心に行なわれた点も問題である. 就業開始年代別に見たリスク推定値(表3)は1960年代, 70年代で顕著に高いがこの説明も今後に残された. MN血液型による全量推定は17名, 歯のESRは3名が可能となった. 中国側の強い要請もあるので疫学調査集団についての過去の被曝線量の推定, また, 現在進行中の第二回調査での個人線量モニタリング, 染色体異常, MN血液型, 歯のESRによる線量推定を行ない, 羅患調査以外に死亡調査, 生活環境調査も加えて, 今回の日中共同研究を昭和64年度に継続発展させたい.
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