研究概要 |
熱帯降雨林の樹上生活者である新世界ザルは最近の森林破壊に伴って生息地は急速にせばまり, その研究はきわぬて困難になりつつある. したがって本研究でも, 適当な調査地を見つけることが的大の課題の一つであった. 二週間近くの候補地探しを試みた末, マカレナ国立公園の隣接地に, 比輔的良好な調査地を見つけることができた. そこには少なくとも六種のサルが生息し, 人間に対しても良好な接触が期待されたのでRio Dudaの中流付近にキャンプを設定して研究を開始した. 対象を大型の四属, ウーリーモンキー, ホエザル, オマキザル, クモザルの四種に限定し, 各研究者が分担する対象のサルを決め, 毎日の観察を開始した. 今回の調査は予備的なものであったが, きわめて豊富なデーターが得られた. 1.フサオマキザル(Cebus apella) 一群の餌づけに成功した. そのことによって個体識別が可能となり, 群れ内の社会関係, 社会構造を明らかにすることができた. 今後の長期観察によって社会変動も明らかとなる. 2.ウーリーモンキー(Lagothrix lagothricha) 群れの分布状況, 群れの大きさを決定することができた. 二, 三の群れについては社会構造も明らかになりつつある. 特に食性に関する豊富なデーターが得られたが, 食用植物の同定はきわめてむずかしく, 今後の課題である. 3.ホエザル(Alouatta seniculus) 五, 六群の存在が確認されたが, そのうち二群について社会構成と群れ内の個体の異動が明らかになり, 従来知られていなかった社会変動と群間関係を見ることができた. また子殺しの現象も推定され, 困難とされていたホエザルの社会の全貌を明らかにすることも可能である. 4.クモザル(Ateles geffroyi) いくつかの小個体数の群れがいたが, 群れを同定するにいたっていない. 現地のロス・アンデス大学の学生を指導し, 研究が続行中である. 5.現地研究者との共同研究 コロンビアのロス・アンデス大学から動物生態学の教授, 学生が参加するプロジェクトを組んた. 帰国に際しては同大学でセミナーを開催し, 調査の報告をおこなった. 今後ともこの関係を維持し, 研究を推進したいと考える. 7.マカレナ国立公園の保護 今回の調査地はコロンビアの国立公園マカレナにかわめて近く, この地域の霊長類の研究を通じてマカレナー帯の地域環境保全に寄与することができる. マカレナの地形的特異性, 動植物の豊富さ, 原生林の保存に注目し, 同国立公園の保護をさらに強く推進する計画の一翼を担う所存である.
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