研究概要 |
1.昭和61,62年の2年度にわたり上記課題による科学研究費補助金(第1年度=7000千円,第2年度=1700千円)をうけ,研究に当った. 第1年度は,同年8月中間〜10月中旬の2カ月にわたりユーゴスラヴィアを訪門,同地の大学・研究機械,政治・行政機関で関係者に面会,ききとり調査をおこない,諸資料の蒐集に当たったほか,工場・地域・農村をひろく訪問して,政治・行政,経済,農業の各側面からの実態調査をおこなった. 第2年度は,第1年度の研究成果をもとにして,研究の総括的とりまとめの作業をおこない,そのために,ユーゴスラヴィア・ザグレブ大学学長VLRODIMIR STIPETICを日本に招いて, 種々助言をうけた. 目下,とりまとめの作業もほぼおわり,研究成果を図書として公刊すべく,昭和63年度,一般学術図書に対する文部省の助成を申請中である. 2.ソ連をはじめ一連の社会主義国では,いま,ペレストロイカ,グラスノユチなどのもとで一連の政治・経済改革が試みられていることは,日本でも大きな注目を集めている. 從来の国権主義,官僚主義,秘密主義を打破し,自由と民主主義の場をひろげ,経済的にも企業の自主性,労働者参加による自主管理,市場メカニズム,農民経営を含む個人経営などを重視する方向が模索されている. 周知のように,ユーゴスラヴィアはこういう方向での先達として,ソ連を中心とするコミンフォルムからの追放などのきびしい国際条件のもとで,民主主義的社会主義をめざし,そのための手段として自主管理制度を採用し,個人経営を尊重しつつ試行錯誤をつみかさねて今日に至っている. 今日の一連の社会主義諸国での改革は,このユーゴでの方向や経驗をあるいみではくみとろうとしているといっていい. 3.こんにちまでのユーゴスラヴィア研究は,どちらかというと社会主義諸国のなかでは特有なユーゴスラヴィアの自主管理制度の理念,ないし制度上のてたまえの分析に重点がおかれ,理念ないしたてまえのもとでどのような実態があるのかの分析はほとんどなされてこなかった. 本研究は,自主管理制度のもとでのコーゴスラヴィアの実態を,政治・行政,経済,農業といった諸側面から分析することを試みた日本でもはじめての本格的研究だといっていい. 4.自主管理制度の徹底は,1970年代の憲法改訂,連合労働法制定となるが,そのもとで末端の職場で組織される「連合労働基礎組織」(OOUR)を自主管理制度の基礎組織として,そこに直接民主主義による労働者管理,所得配分などの諸権限を下降させていくことが企図された. だが,こんにち,ユーゴスラヴィアが「経済危機」をむかえるなかで,自主管理制度の根幹となる憲法・連合労働法の改訂が1988年末をめざして企図されつつある. その方向は,從来とは逆に,OOURより上部組織である「労働組織」(RO,日本の企業に相当),や連邦などの諸権限を強化しようとするもの,権限の上向過程であるといっていい. 本研究では,「危機」にさいしてゆれ動いているユーゴスラヴィアの実態を諸局面についてあきらかにしえた. 5.ユーゴスラヴィア農業は,厖大な旧来的農民経営群と解放後あらたに創設れた少数の巨大な社会経営という2重構造でなりたっている. 従来,ユーゴスラヴィア農業の基礎をなす農民経営の実態についてたちいった解明をなしえなかった. 本研究は農村の実態調査を実施することにより,こんにちユーゴスラヴィアの農民層の2極分解がおこっていること,すなわち,一方には大多数の農民の「土地もち労働者」,「労働者ー農民経営」(兼業)化,他方では少数の上層農民の富裕化,ブルジョア化が進展しつつあることを確認しえた.
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