研究概要 |
はじめに: 黒色真菌症は, フォンセケア, クラドスポリウム, エクソフィアラ, フィアロフォラといった黒色真菌の感染によって発症する難治性の皮膚疾患で, 本症の多い中南米では中壮年男性の下股に多い. 日本は先進諸国の中では本症が多い方にランクされており, 幼若年者, 老齢者に多い, 性差がない, 顔面, 上股にも発生する, しかも例の5%に脳などの内臓に転移病巣がみられる, という特徴がある. 我々は8年前より, これら病原性黒色真菌の本邦の自然および活性環境中の生態調査をすすめ, その結果は本症の発生状況, 原因菌種の分布の特徴と呼応していることを示してきた. 中南米は本症が多いにかかわらず, 原因菌の生態に関する調査研究はきわめて少ない. 本海外学術研究は, ベネズエラ, コロンビア, ブラジルにおける病原性黒色真菌の生態を明らかにすることを目的としている. 今回, ベネズエラ, コロンビアについて結論が得られたので報告する. 調査試料と原病性黒色真菌分離法: 1985, 86年にベネズエラ, ファルコン州コロ市および周辺地区(黒色真菌症多発地帯)にて採取された木, サボテンなどの腐植植物片81, 土壌57, コロンビアのボゴタ, カルタヘナ, メデリン, カリの各市にて採取された土壌306の各検体について病原性黒色真菌の分離培養を試みた. 各検体の適当量に抗生物質添加生理的食塩水を加えて混釈し, 約20分間靜置後, 上清の一部を抗生物質添加ポテト・デキストロース寒天平板に塗抹し, 35℃にて培養した. 以後隔日に観察し, 生じた黒色集落を鈞菌して形態学的および生理学的性状を検討し, 菌種を同定した. 結果と考察: 表1に示したようにベネズエラ, ファルコン州の検体からCladosporium carrioniiが高頻度に分離された. この結果は, 同州に本菌による黒色真菌症が多発し, 患者は農夫など戸外労働者が多い事実を裏づけている. ファルコンは半乾燥地帯で各種サボテンが自生している. 従来, サボテンの棘による刺傷から本症が発生すると説明されていたが, 朽木, 木材, 樹皮など木質物質の本菌陽性率はサボテンより高く, 木質物質も感染源として重要であることを示していた(表2). 他に, Exophiala moniliae,Phialophora verrucosaがかなり分離されているが, いずれも病原性は低く感染は稀である. 一方, 中南米諸国の中で本症発生率の低いコロンビアでは, 土壌の黒色真菌症原因菌陽性率は低く, 同国における主たる原因菌Fonsecaea pedrosoiが2株分離されたに止まった. 他に, Exophiala spiniferaが分離されているが, 病発性は低い. 同国では, 菌種の原因菌Petriellidium boydiiとその関連菌が多数分離された点が注目される(表1). 今回のベネズエラ, コロンビアにおける病原性黒色真菌の生態調査の結果は両国の黒色真菌症の発生状況, 原因菌種の特徴をよく説明し, 感染源をより明らかにするものであった.
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