研究概要 |
本研究の目的は, 急速に市街化が進行しつつある東南アジアの大都市における市街化の構造を, 1.計画的に建設される都市基盤施設がいかなる環境を持つ市街地を誘発するか, その法則性を明らかにする, 2.計画的に供給される住宅及び住宅地, 非計画的に発生する住宅地等の居住環境を評価し, 比較類型化する, 3.各種住宅地に適用される法規制, 補助等の居住環境向上に資する制度の効果を明らかにする, 4.生活環境基盤整備施設を都市交通の体系としてとらえ流動実態より評価する, ことによって解明しようとするものである. 調査は, 1.航空写真より住宅地開発に着目した土地利用図及び道路網図の作成, 2.現地調査による住戸形式の把握, 3.アンケート(インタビュー形式)による居住環境, 住民属性及び交通行動調査, 4.居住者, 行政担当者, 各住宅計画機関からのヒアリング によって行われた. なおこれらの調査は, 昭和60年度の予備調査結果より, 各国の市街化の状況, 協力体制, 国情を考慮慮して, 主としてタイ・バンコク, インドネシア・バンドン及びシンガポール各市に対して昭和61年度に行なわれ, 昭和62年度に各国(タイ・チュラロンコン大学, インドネシア・バンドン工科大学, シンガポール・シンガポール国立大学)の代表者と東京大学において調査結果について討議を行なった. 以上の研究より, 東南アジアの大都市の郊外住宅地における市街地及び市街化の特性としては, 以下のような特色があることが確認された. 1.大都市郊外部における都市基盤整備を伴った住宅地開発のタイプとしては, 宅地造成地開発タイプと建売住宅地開発とがある. またこれらの開発によって形成された住宅地には, それぞれ低所得層向けの住宅地と高所得層向けの住宅地とが存在するが, これによって分類された住宅地はその物的特性(開発規模, 敷地面積, 建坪率, 隣棟間隔, 庭の形状)によって分類されうるので, 航空写真からの分類が容易に行える. 2.住宅地開発は, おもに計画的道路建設と公共施設開発に誘発される形で行なわれるが, 既存の私道もこれらの開発によって市街地内での補助幹線的意味を生じ, その道路に沿ってさらなる住宅地開発が行なわれる. 3.計画道路には, バス路線が公的機関によって付設され, CBDへのアクセスが確保されるが, 私道にもこれらのバス路線に
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接続するためのバスサービスが開始され, 既存の私道がその地区における主要道的役割を果たすことになり, さらに市街化が進行する. 4.特にバンコクにおいては, 100戸〜500戸の大規模な建売住宅地開発が計画道路から離れたところ(5km程度)に行なわれ, そのアクセスを確保するために, 計画道路に接続する道路が開発主体によって建設されるが, この道路にもバスサービスが行なわれるようになり, 3.と同じくこの道路も地区内の主要道路としての性格が付与されるようになり, 周辺に新たな住宅地開発が展開され, 市街化が進行する. 5.住宅地は, 前述の道路周辺に形成されるほか, 既存の団地開発にぶら下がるように形成されるものも多く(これは既存の住宅団地の都市基盤施設を利用しようとする意図の下に生じたものであると思われる), この様な開発により, 周辺の市街化と相まって既存の都市施設に対する過付加を招くことになっている. 6.低所得者向け住宅地は, 大規模団地建設にともなって形成されるが, これは, 大規模団地が出来ることによる職業機会の増大によるものと思われる. アンケート調査によると, 低所得層向け住宅地に住む雇用者の大部分(80%強)は職場をその居住地の周辺に持っており, このことからもこの事実が裏付けられる. 7.低所得者向け住宅は, バンコクにおいては, 住地分譲地の一部をさらに小さく分割し(1戸当り100m^2〜150m^2)そこに住宅を建てて住むか, 古い建売住宅を借りて(一部には多世帯居住も見られる)住んでいるもので, いわゆるスラム(スクォッター)は調査地区においてはほとんど(戸数で2%程度)存在しない. またバンドンにおいては調査地区の25%(戸数)がカンポンであるが, これも周辺に住宅団地が開発されるのに伴って増加しており, 6.と同理由によるものと思われる. 8.一方, 高所得者向けの住宅地に住む雇用者はCBDに通う人が多い(50%強). この傾向は宅地分譲地タイプの住宅地より建売住宅地タイプの住宅地においてより顕著である. ところでこの高所得者向け住宅は調査地区において, 過去10年間に50%(戸数)増加しており, この傾向は今後とも続くとみられることから, 交通渋滞等の交通問題がより深刻化するものと思われる. また5.に述べたような市街化が進行すれば, 道路容量の問題のみならず, 都市施設においても種々の問題が生じ, 住宅地開発を個別にみれば計画的であっても, それらが集まって形成される市街地における上位計画の整備が急務であると思われる. 以上得られた知見より, 東南アジアの大都市(特にバンコク, バンドンにおいて)周辺部における市街地では, 都市基盤施設(計画道路, 公共施設)及び大規模住宅団地開発にともなって市街化が誘発され, これらを目的としたサービスの改善により, さらなる住宅地開発が起こり, これを繰り返して, 全体として無秩序な市街化, 高密化を招いていることが明確になった. 隠す
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