研究概要 |
北アナトリア断層帯西部域に地震空白域が存在し, 近い将来かなりの規模の地震が発生するのではないかと考えられている. しかし, 地震空白域内にどの様な活断層が存在するのか, またどの活断層が近い将来活動して地震を引き起こすのかなどについては, よくわかっていない. 本研究ではこのような基本的問題を解明するために, 地震空白内で各種調査を実施した. 以下では各項目毎に研究成果の概要を示す. 1.地形・地質調査 地形的特徴から, 地震空白域には2本の構造線が存在することがわかった. このうち南側のものは, 本研究における詳しい調査により, 右横ずれを示す活断層であることが判明し, これをイズニックーメケジェ断層と名付けた. 地質構造のくい違いから, この断層の累積変位量は25kmに及ぶことが確認できた. また, 詳しい地形調査の結果, 沖積扇状地を刻む谷が40mのくい違いを示す地点を発見し, この付近でトレンチ調査を実施することにした. トレント調査の結果を次に示す. 調査地は扇状地堆積物で覆われているが, その主体は, 一枚の厚い泥流堆積物とそれを覆う薄いれき層である. このれき層の下部は断層活動による乱れがみられるものの, 上部は断層変位を受けていない. 木片試量の^<14>C年代を求めたところ, 変位を受けていない上部は約200年B.P., 変位を受けている下部は500年B.P.程度という結果となった. したがって, このイズニックーメケジェ断層の最新の活動は, 200〜500年B.P.と考えられる. これに対し北側の構造線は幅広い複雑な変形帯となっていることが判明した. しかも断層帯内には多くの活しゅう曲が発達しており, 圧縮変形が生じていることが示唆される. この結果は, 英国隊による地震観測結果から導かれる発震機構(横ずれ+正断層型)と矛盾し, 今後の検討課題となっている. 2.地震観測 地震空白域内南部に, 右横ずれ型のイズニックーメケジェ断層が存在するが, この活断層の近傍の微小地震活動はまったくわかっていない. これに対し北部の断層帯では英国隊による地震観測の結果, 群発地震も含め, かなり高い地震活動を示していることがわかっている. そこで本研究では, イズニックーメケジェ断層近傍で微小地震観測を実施した. 観測期間は約一ヶ月であったが, この期間中に観測された地震は比較的遠い地震であり, イズニックーメケジェ断層近傍の地震はまったく観測されなかった. このことは, イズニックーメケジェ断層の現在の地震活動は非常に低いということを意味している. この低活動度と周辺の地震活動を総合的に解釈すると, イズニックーメケジェ断層近傍はいわゆる第二種地震空白域を形成している可能性があると思われる. 3.地球電磁気観測 イズニックーメケジェ断層を横切るいくつかの測線に対して, 全磁力, 比抵抗, 自然電位の測定を行った. その結果, この活断層に関連する異常が数多く発見された. とくに磁気異常は顕著で, 断層破砕帯を忠実に反映しているとともに, 活断層線の位置を推定する際の重要な情報となることが判明した. また, 磁気異常の解析から求められたダイク状磁気物体が断層近傍の応力状態の変化を地磁気の変化として示すという可能性が考えられる. こうした磁気異常の情報を利用して, 効率のよい前兆的地磁気変化を検出すべく, 現在全磁力連続観測を行っている. 4.地球化学観測 イズニックーメケジェ断層を横切る測線において土壌ガス中のラドン濃度を測定した. 断層線直上でのラドン濃度異常は検出できなかったものの, 現在数点において定期的測定を行っている. 地下水の化学分析も, 断層近傍から採取したサンプルに対して行い, 数地点では定期的調査を行っている. 以上に示した研究成果は, 地震予知にとって大変貴重なものであるが, まだ不十分な点もある. 第二次調査においては, トレンチ調査を続行するとともに, 地震観測を強化し, 地震空白域内の活動状況を明らかにする予定である. また, 地磁気, 地電位, ラドン濃度等の連続観測を継続し, 地震前兆現象の検出体制を強化したいと考えている.
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