研究概要 |
本研究の成果は大参が主として編集し, 佐々木が編集を補助した報告書Mtongwe and Mgonga:an interim report of the east and northeast African prehistory research project 1986に詳述してある. 以下の英文論文名. ページ数はいずれも上記報告書の書志情報である. 研究成果をケニア関係とタンザイア関係に二分して概述する. ケニア関係ではモンパサ市のムトングウエ遺跡およびその周辺でえた考古学的・地質学的資料を分析・研究した. 主要な成果は, 酒井の地質学的研究, 安川の考古学的研究(発掘資料の分析)および加藤の考古学的研究(表面採集資料の分析およびこれまでの収集資料の試行的総括)であり, 大参が全体を総括して調整した. 酒井の研究("Quaternary geology of the Mtongwe site in Kenya"pp.5ー18)は本遺跡の地質学的研究としては画期的な内容をもつ. まず, 花粉分析を始めて本遺跡の研究に導入し, 本遺跡の遺物包含層よりも下の地層が最終間氷期の極乾燥状態で形成されたことを指摘し, 本遺跡の古環境と年代観に重要な示唆を与えた. また顕微鏡観察と精密な粒度分析により遺物包含層(石英質細砂粒を主体とする赤色土)が極乾燥気候下の風送沿岸性海成層であることを示し, 本遺跡の遺物に係わる古環境を明らかにした. 安川の考古学的研究("Palaeolithic implements excavated and collected at the Mgongo site,1986"pp.19ー94)は少くとも量的には本研究の中心的成果である. 安川はKYー52地点の発掘によってえた出土遺物を上下二群に分けて詳細に記述・分析し, 下群から上群に移行する間に石器の小型化が進行したことを指摘した. また安川は, KYー43南地点の発掘でえた出土遺物を厳密に記載するとともに, 接合資料によりルパロア技法を用いた石器製造過程を再現し, この分野の研究の好例を示した. さらに安川は本遺跡内の地質学的発掘地点(4ヶ所)からえられた遺物と本遺跡内の5地点で採集し遺物を慎重に検討し, 本遺跡の範囲が従来考えられていたのよりもかなり広いとの結論に達した. 上記遺物の比較検討,
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これまでの本遺跡調査で得られた考古学的資料の総合分析から, 本遺跡の遺物が全体としてルパロア技法から縦長フレーク技法への移行過程にあるとの重要な指摘をするに至った. ただし, これまでの本遺跡調査で確認された上(中)下遺物群が異地点間でどう対応するかについては明確な解答を用意できず, この問題の解決を今後の課題とせざるをえなった. 加藤は, モンパサ市周辺のングタトウ,マガンダ・ヤ・ゴンベ,ミピラニの三遺跡での採集遺物を詳細に記載する("Surface collected implements from three sites around Mombasa"pp.95ー110)とともに, ケニア海岸地方の旧石器編年を試みた("A preliminary summary of the palaeolithic culture development in the Coast Province of Kenya"pp.111ー116). 後者はこれまで類例がない点でもまた今後の本遺跡研究の方向を示した点でも極めて重要である. 以上で明らかになったように, ケニアでの調査に関する研究では格段の前進がみられたが, 遺跡の範囲が予想をはるかにこえるらしいこと, 中心的出土遺物に認められる上(中)下群の性格が不明確であることから, 今後も本遺跡の調査を続行する必要があると結論せざるをえない. タンザニア関係ではイリンガ州のムゴンガ・マコロンゴーニ遺跡とその周辺でえた考古学的・地質学的資料を分析・研究した. 主要な成果は中村の地質学的・考古学的研究で, 佐々木が総括・調整した. 地質学的研究("A geological introduction to the MgongaーMakorongoni site"pp.121ー128)では, 本遺跡の遺物包含層である湖成層(ムゴンガ層およびンダロングワ層)が周辺一帯に広く分布し, ムゴンガ遺跡が広範囲に拡がるだけではなく, 未発見の同時代的遺跡が多数に及ぶ可能性があることを指摘した点が特に重要である. 考古学的研究("An archaeological introduction to the MgongaーMakorongoni site"pp.129ー156)ではMg III地点を中心に6地点で採集された遺物を精密に記載した上で, 遺物を出土層準の異なる三群にわけ, それぞれが前期石器時代(アシュール期)・中期石器時代(類サンゴ期)・後期石器時代に対応させられるとして, 今後の本格的調査のガイドラインを設定した. これらの研究により, タンザニアの調査の目的であった発掘調査の準備は充分になされた. 隠す
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