研究概要 |
昭和61年度文部省科学研究費補助金(海外学術調査)により行ったカナダ亜寒帯林調査の結果を, 昭和62年度, 同補助金によりとりまとめた. 一般に亜寒帯林では, 春先から夏にかけ, 落雷による自然の森林火災が頻発し, 広大な面積にわたる森林が焼失あるいは部分的に被災する. このうち火災が樹冠に及んだ(樹冠火)森林では, 当該の森林そのものが焼失するが, その直後からバンクスマツなど, 火災に適応した繁殖様式を備えた樹種を中心に新しい林が更新する. 他方, 火災が樹冠に至らず地表にとどまった(地表火)ところでは, 従来の森林は存続するものの, 地表の有機物の焼失から一部の主林木の焼死に至るまで, 火災の強度に相応した被害を受ける. 本調査では, こうした地表火による林分構造と林内環境の変化が, 当該林のその後の生長及び樹種構成に及ぼす生態的な役割を明らかにするため, 『先代林の樹冠火により更新したバンクスマツ林において, 地表火の頻度が低い場合には, 時の経過とともに林地が次第に湿性へと傾き, その結果, トウヒを経て湿原へと向かう植生遷移が進行する』という作業仮説を設け, その前半, バンクスマツ林からトウヒ林への植生遷移を中心にこの仮設の検証を行った. まず, 野外調査においては, カナダ, ノースウエスト準州, ウッドバッファロー国立公園内外に, 森林火災後更新したバンクスマツを主体とする林, 22林分を選び, 各林分の森林火災歴, 樹種組成, 林分構造, 下層植生, 土壌特性, 立木の材質など, 林分の諸特性を明らかにした. 林齢30年から200年におよぶこれら22の調査林分において, 同一林分内で続いて起こった二件の地表火の時間的間隔は, 最も火災頻度の高い林分で, 平均12.6年, 最も頻度の低い林分で同73.0年, 全林分平均では, 28.1年であった. また同一林分内における個々の火災問隔を見ると, 最も短いもので2年, 最も長いものでも79年と, 亜寒帯林における森林火災の普遍性が明らかになった. 火災頻度の林分構造に対する影響を見ると, 一般に火災頻度の高い林分ほど, 立木密度が低い一方で構成木の胸高直径は大きいという結果となった. これは, 地表火により一部の立木の間引きが起こり, その結果林内における種間競争が軽減されるためと考えられる. また, 地表火による間引きは, 残存木の生長を促すだけでなく, 稚樹の侵入も促すが, 火災頻度の高い林分では, 上層木と同種であるバンクスマツの稚樹が多いのに対し, 頻度の低い林では他樹種の稚樹の占める割合が高く, 林分の加齢とともにトウヒ類の比率が高まることが明らかになった. さらに, 下層植生の分析でも, 火災の頻度が低く林齢が高いほど, 林地が湿性に傾き, 乾性のバンクスマツには不利で, 湿性のトウヒには有利な環境が形成されてゆくことが明らかになった.
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