研究概要 |
太陽風エネルギーの低緯度磁気圏への流入過程, 太陽風エネルギーに起因する高エネルギー粒子(電子, プロント)と波動との相互作用, 波動の増幅, 並びに波動の伝搬特性を総合的に明らかにするために, 日・豪共役多点でのLFデッカ局電波, VLF送信局電波, VLF/ELF電磁放射, 並びにULF磁波(地磁気脈動)の同時観測を行った. 調査項目は, (1)北海道LFデッカ局(美瑛, 厚岸, 稚内)電波の地球磁力線に沿う伝搬波(ホイラス・モード波)を送信局の磁気共役点, バーズビル及びその周辺の3ケ所で受信し, 波動・粒子相互作用, 伝搬特性, 到来方位及び入射角を調べること, (2)ソ連VLF局電波をその共役点セドナで受信し, ホイラス波の発生特性, 粒子との相互作用, 到来方位及び入射角測定, 並びに自然ホイスラとの発生特性との対比を行うこと, (3)バーズビル・旭川の真の磁気共役点で地磁気脈動の3成合(H, D, Z)の同時観測を行い, 強度・偏波特性を同定すること, 同磁気緯度(但し東方約1300km)のダルビイと同経度(南方1000km)のアデレードでの同時観測による経度及び緯度効果の調査, (4)バーズビル及びセドナでの自然VLF/ELF放射の強度・偏波特性の測定, (5)波動・粒子相互作用の結果, 電離層下部まで散乱降下して来る電子による電離増大をNWC(22.3kHz)局電波の位相変動から推定することとであった. 本研究総括で行われた解析結果の概要を記すと(1)美瑛LFデッカ局からのホイスラーモード波は, 磁気活動が静かな時は日没および日出の周辺で各々1時間程度受信され, 日没には0.5Hz程度のドプラシフト, 日出には同程度の負のドプラシフトを示す. しかし, 磁気擾乱の1日後には, 日没から夜間にかけて数時間以上にわたり強度は20dB以上を増大し, この間, 正のドプラシフトを変動する. その後日出前の4時頃から負のドプラシフトに移る. (2)美瑛デッカ局(85kHz)からのホイスラモード波はバーズビル及び50〜100km離れた観測点においても同時に強度の増大が見られた. 一方, 稚内(128kHz), 厚岸(114kHz)からのホイスラモード波の増大は小さい. この結果は, 送信周波数を送信局を通る磁力線の赤道上での電子ジャイロ周波数で規格した値が0.3程度の時, 磁力線に沿う電子密度の増大部を伝搬するダクト伝搬において強い波動・粒子相互作用が起こり易いことを実験的に明らかにした. 今後, 相互作用の帰結としての粒子降下にもとづく電離層電離増大の解析が期待される. (3)ソ連VLF局からのホイスラモード波(14kHz)も磁気嵐後, 日没から夜間にかけて信号強度は増大し, 磁気圏内ダクト伝搬の伝搬時間も静穏時に比べ短かくなる. この結果も, LF帯と同様ダクト伝搬通路の内側ドリフトを示している. 今後の定量的考察のため, 到来方向及び偏波を解析している. (4)セドナで観測された自然のホイスラの発生は, 共役点であるソ連VLF局の周辺半径約1500km以内での雷放電が源であり, 又, (3)で得られたVLF局ホイスラモード波の伝搬条件を考慮すると半径3000kmまでの雷放電が源となることもある. (5)地磁気脈動の強度・偏波特性の共役点同時観測データ, 経度及び緯度方向に離れた2地点での同時観測データとの比較により, (a)最大振幅はアデレードで(磁気緯度45°)で観測され, 低緯度で観測される昼型Pc3脈動は45°付近の地球磁力線の共鳴振動が原因である. (b)南北半球での偏波は午前, 午後で逆転し, 南北半球では鏡像関係にある. (c)冬半球にあるバーズビルのH成分の振幅は夏半球にある旭川での振幅より大きい. このことはPc3型圧縮モードの電離層レベルまでの浸透とそれに伴う電離層導電率の影響を示唆している. (d)同緯度のバーズビルとダルビイの夫々の日出日没時でのH/D面内での偏波の長軸の大きな変動は磁気境界面と太陽風のなす角に依存している. 以上の如く, 解析の結果, 新しい知見が得られた. 今後さらに詳細な理論的検討を進め将来, 計画している能動実験(我々自身でLF電波を送信する)を用いた共役点観測の遂行に貴重な資料を得ることと期待される.
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