研究概要 |
本研究総括は, 以上の枠組みのもとに実施された昭和61年度の調査全般について収集資料の整理と検討, 調査報告の取りまとめ, 報告書の出版を目的として実施された. その概要は, 以下のとおりである. 研究課題としてとりあげた「マリー型農耕文化」は, 東南アジア島嶼部の熱帯降雨林気候帯(「マリー世界」の核心域)で形成された適応を遂げた, 焼畑ないしは短期林閑畑における陸稲・雑穀作と湿潤低地における無犁耕水田稲作とを基盤にして, その上に成立した技術・文化・社会を総称する術語である. 本計画の全体的な枠組みは, 「マレー世界」の核心域から周辺域, すなわち「インド洋世界」や「太平洋世界」へと拡散していったオーストロネジア語族の移動に伴う「マレー型農耕文化」の内発的な展開と, 移動に伴う外文明からの影響, すなわちインド化やイスラム化による「マレー型農耕文化」の変容とを調査・解明し, 人の移動と環境形成過程について基礎的な調査研究を実施するところにある. この枠組みにもとづいて, 昭和61年度には, オーストロネジア語族の最西方への移住先であるマダガスカルを中心に調査を実施するとともに, マダガスカルの農耕文化を形成したもう一つの文化要素であるアフリカからの影響を理解するために, ケニア, スーダンなどの東アフリカでも比較調査を実施した. また, 「マレー世界」の核心域内における人の移動と環境形成過程を調査するためにマレーシア, インドネシアにおいても同様の調査を行った. 1.個別に収集した文献資料, 調査票, フィールドノートおよび写真, スライドなどは各分担者の責任の元に整理, 保管されている. マダガスカルの10万分の1地形図は整理を終え, 東南アジア研究センター地図室に保管され, 一般の利用に供せる準備が整った. 又, 現地採集のイネ品種は, 京大農学部で栽培され, 必要な調査を終えて採種された. 現地および日本での採種種子ともに, 東南アジア研究センターで保管され, 必要に応じて関係機関に配布できる態勢となっている. 2.「マレー型農耕文化」の最西方への伝播地域であるマダガスカルを中心に調査を行ったので, この地域に重点をおき各分担者の調査報告を取りまとめるとともに, 「マレー型農耕文化」のこの島への渡米の問題をめぐって共同討議を行った. マダガスカルの種々の文化要素が「マレー世界」と共通することが明らかになったが, 同時にアフリカからの牧畜文化の流入もこの島の環境形成ならびに農耕文化の形成に大きな影響を与えていることが明らかとなった. 3.当初の計画では, 「マレー世界」の核心域に関する報告としてマレーシアの調査結果を, そして周辺域に関する報告としてマダガスカルの調査報告を出版する方針であったが, 両報告とも当初計画より大部なものとなったため, 本調査総括のもとでは, マダガスカルの調査報告のみを出版した. 報告書は, "Madagascar:Perspective from the Malay World"の標題で刊行され, 論文5編, 共同討議の記録1編を収録している. マレーシアに関しては, 『東南アジア研究』の特集号として昭和63年度に公表する予定である. なお, 本課題に関する海外学術調査は, 昭和63年度も継続して, 主として「マレー型農耕文化」の東方への伝播地域である東インドネシア, メラネシアにおいて実施される予定であり, この調査の終了をまって, 「マレー型農耕文化」に関する総合的な報告書を刊行する予定である.
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