研究概要 |
本学術調査では, チリにある米国国立光学天文台セロトロロ天文台, 欧州南天天文台ラシャ天文台における観測によって得られたデータをもとに, 銀河の活動性と衝突を研究することが計画された. 両天文台における望遠鏡の使用にあたっては, 半年毎に観測計画提案書を提出し, 厳しい審査の結果, 学問的に優れたものから優先的に使用が許可される. この際, 他の観測計画との競合もあり, 競争率は両天文台とも普通3倍以上で, 調査計画で意図された観測計画は一部変更して実施せざるを得なかった. 以下, 実施された観測計画と得られた成果について概述する. 1.米国国立光学天文台セロトロロ天文台における測光観測(西田, 市川) 昭和61年5月29日から31日まで, セロトロロ天文台の1m反射望遠鏡に可視域測光装置を取り付けて, 衝突合体中の銀河中心核領域のUBVRI広帯域測光観測を実施した. 同年3月セロトロロ天文台の1.5m反射望遠鏡を使って, 西田 稔が実施した同じ銀河中心核領域の近赤外域測光観測結果と比較して, 中心核領域での星生成の状態を調べて, 中心核領域における活動性と銀河の衝突の強さの間に強い関連性があることを明らかにした. 6月2日から6日までセロトロロ天文台のシュミット望遠鏡を用いてへびつかい座暗黒星雲を観測し, 星雲内に存在するIRAS天体の光学的同定をおこなった. 2.米国国立光学天文台セロトロロ天文台における探査観測(寿岳) 天空の広い領域にわたって, クェーサーの宇宙空間における数密度を求めることによって膨張宇宙の進化との関連性を調べる目的で, 昭和61年11月25日から12月6日まで, 米国国立光学天文台セロトロロ天文台のシュミット望遠鏡で赤色域に高感度の乳剤IIIaFをもちいた写真乾板を使用して, 探査観測を実施した. 乾板の解析が進行中である. 3.米国国立光学天文台セロトロロ天文台における赤外線観測(西田,谷口) 昭和62年1月9日から13日まで, 米国国立光学天文台セロトロロの1.5m反射望遠鏡に高感度グレーティング赤外分光装置をとりつけ, 活動銀河中心核の赤外線分光観測を実施した. 活動銀河の中心核領域からの水素原子の再結合線Brα,(4.05μm),Brγ(2.17μm),鉄イオンの禁制線(1.64μm)水素分子の回転振動遷移による輝線(2.12μm)の強度を決定し, これら輝線の励起機構を明らかにした. 特に水素分子の輝線強度は星生成銀河よりもセイファート銀河でより強いことを発見した. 4.欧州南天天文台ラシャ天文台における分光観測(家) 昭和62年1月20日から2月1日まで欧州南天天文台ラシャ天文台の2.2m反射望遠鏡にボーラー・チブンス分光器を取りつけて, セイファート銀河の中心核領域およびクェーサーの高分散分光観測を実施した. これらの観測によって銀河中心核領域のガスの運動状態と, クェーサー周辺領域のガス雲の存在を明らかにした. 本学術調査は, ほぼ所期の目的を達する研究成果を挙げ得たものと考えられる. とりわけ協動銀河の赤外線分光観測では, 高感度の赤外分光装置を利用して, 様々の活動性をもつ銀河中心核からの水素分子の輝線を検出することに成功し, これまでの世界水準を抜きでた観測結果として, 海外でも注目を浴びていることは, 特記に値する. これら各分担課題の研究を更に発展させるため, 昭和63年度での海外学術研究が期待される.
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