研究概要 |
1986年迄の現地調査及びその後の研究によって, 次に掲げる諸事実が明らかになった. 1.堆積構造と褶曲構造 タルシスやソチエル鉱床では, 鉱石中に種々の堆積構造(laminated structure,cross lamination,Synsedimentary breccias,graded beddingなど)が観察される. また, タルシス鉱床ではスランピングに伴って移動したと考えられる鉱石もみられる. さらに母岩中にもスランプ構造が観察される. これらの事柄は鉱石鉱物が水中で流動・堆積し, その後鉱石は完全に固結しないで再び移動したものと解析される. 鉱床と母岩は, 野外調査及び岩石の顕微鏡観察から3回の褶曲作用を受けたものと考えられる. 第I期の褶曲はスレート劈開(S.ナ_<1.ニ>)を褶曲軸面とするopenーis oclinalな褶曲である. 第II期の褶曲はちりめんじわ劈開(S.ナ_<2.ニ>)を伴うopenな褶曲である. 第III期の褶曲はS.ナ_<2.ニ>を曲げるちりめんじわ劈開を伴う褶曲であるが, 局所的にしか認められない. これらの褶曲のなかで, 第I期の褶曲は岩石の分布に極めて大きな影響を与えている. タルシスやアスナルコリャール鉱山などでは, 第I期の褶曲作用が著しいところであり, 鉱体は褶曲の軸部で折り畳まれていることが判明した. 2.鉱床と鉱石鉱物 イベリア黄鉄鉱鉱床帯の多金属型塊状硫化物鉱床は, 鉱石鉱物の性質の違いによっていくつかの型に区分される. スレートに近接して胚胎されるルーサル,タルシス及びソチエルなどの鉱床には, 少量の磁硫鉄鉱が含まれ, 閃亜鉛鉱中のFeS量は一般に10〜18モル%である. 火山岩累層中のリオチント鉱山のサン・ディオニシオ鉱床やサンテルモ鉱山の鉱床では, 閃亜鉛鉱に富む鉱石中に重晶石が見いだされる. 閃亜鉛鉱中のFeS量は10モル%以下である. 含銅量が例外的に大きいネーベスコルボ鉱床は, 錫の含有量が特に高い. 自然蒼鉛はネーベスコルボ鉱床のほか, サン・ディオニシオ鉱床の脈状鉱やアルジュストレル鉱山のモイニョ鉱床など比較的銅の含有量の高い鉱床に認められる. このような各鉱床における鉱石の性質の違いは, 鉱床生成場における酸化環元状態及び熱水の温度の違いを反映しているものと考えられる. 3.硫黄同位体について 1984年から1986年にかけてイベリア黄鉄鉱鉱床帯の諸鉱床から採取された硫化物鉱石の300近い硫黄同位体分析を行った結果, 次の事柄が明らかになった. 1.サン・テルモやコンセプシオン鉱床は, 典型的な火山源塊状硫化物鉱床の同位体分布を示している. 2.リオ・チント,ラ・サルサ及びネーベス・コルボ鉱床では大部分の硫化鉱熟は正のδ^<34>S値を示すが, 1に較べて負のδ^<34>S値を示すものが認められる. 3.タルシスやルーサル鉱床は, 鉱床群中異常で, 大部分負のδ^<34>S値を示す. 4.アルジェストレル,ソチェル及びアスナルコリャール鉱床では, リオ・チントグループとタルシスグループの中間のδ^<34>S値を示す. 以上のことから, 負のδ.ナD134.ニDS値や変化に富む硫黄同位体分布は, これら鉱床形成に関してバリテリア起源の硫黄がかなり関与していることが判明した. 4.柵原鉱床との成因に関する比較 柵原鉱床とイベリア黄鉄鉱鉱床帯の鉱床群との成因その他に関して次の諸事項が判明した. 両者ともに, 海底酸性火山活動による黄鉄鉱を主体とする噴気堆積性鉱床であること, 鉱床形成後に3回の褶曲運動を受けていることは共通しているが, 次の諸点について差異がある. 1)隨伴鉱石鉱物は, イベリア鉱床帯では黄銅鉱・四面銅鉱・閃亜鉛鉱・錫鉱物等を含む多金属鉱床であるのに対し, 柵原鉱床は隨伴鉱物を殆んど含まない単一金属鉱床で, 白亜紀花崗岩による熱変成作用により部分的に磁硫鉄鉱・磁鉄鉱を形成している. 2)硫黄同位体比δ^<34>S値はイベリア鉱床帯のものと異り, 柵原鉱床の鉱石はすべて正の値を示す火山岩起源の鉱床であることが判明した. 地質構造解析は鉱床周辺に限定されたために, 各鉱床間の調査が充分でなかったので, 1989年度に可能な限り, 現地に於て構造解析を実施したい.
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