研究概要 |
熱帯・亜熱帯地方の内湾や河口付近および沿岸域の潮感帯に発達するマングローブ林生態林の, 特殊な立地に対する適応, 独得の構造, 特異な生態生理を明らかにするため, 東インドネシアにおいて調査をおこなった. 現地調査は, 昭和60年8月1日から9月15日に予備調査を, 昭和61年7月30日から10月12日に本調査を, および昭和62年3月4日から26日までの期間に追加調査を実施した. 調査はインドネシア国立生物研究所と共同して, 同国立海洋学研究所の協力を得ておこなった. 予備調査においては, マルク州カオ湾(ハルマヘラ島東岸)沿岸のソソボック川河口の, 原生状態を保ったマングローブ林に8.4haをマークし, 30×30mの永久調査区を5カ所に設置することができた. 本調査は1カ年後に, カオ湾において, マングローブ林の構造と機能, 動・植物特に藻類, カニ類, 貝類の分類と生態および行動に関する調査をおこなった. ソムラキ他いくつかの地点で, 広域的な比較調査のための標本・試料の採集をおこなった. 追加調査はジャワ, バリなどをくわえた調査地で, マングローブ林の構造と機能の調査をおこなった. 採集した動・植物標本は乾燥, 液浸あわせて約3500点, 種子標本約100点, 分析用植物試料約450点, 土壌試料約280点で, 現地の国立生物学研究所, 国立海洋学研究所に残置したほか, 愛媛, 筑波, 岐阜, 京都各大学で保管されている. 調査総括は(1)藻類の分類と生態, (2)底生動物, 特にカニ類, 腹足類の生態と行動, (3)マングローブ林生態系の構造と機能についておこなった. 研究成果の概要は以下のとおりである. (1)藻類の分類と生態 主として, Bostrychia, Calogloss, Catenella属のものから成り, 世界の他の地域のマングローブ林のそれとよく似ていること, マングローブの支柱根に着生して, 潮感帯の上, 中, 下部にそれぞれ固有の群落をつくりだしているが, 出現様式は他の地域と共通することがわかった. 大型藻類は38種が同定されたが, 6種が緑藻類, 7種が褐藻類, 25種が紅藻類に属するものであった. イドプールで認められる種類相と酷似していること, 個々の種は外洋性のものと形態的に明瞭に区別できることがあきらかにされたが, マングローブ林域にはには淡水起源のものが存在することが注目すべき点である. (2)底生動物, 特にカニ類, 腹足類の生態と行動 った. 注目すべきは日本の沿岸域のものと共通種が半数を占めたことであろう. 腹足類は40種のうち24種がマングローブ固有種で, 分布生態を観察したところ, 庇蔭度, 潮汐, タイドプール, 枯死木の有無などが, 強く影響することを示した. ratia alba林内に生息するOcypodidsが気根上にはいのぼって, 採食するのが発見され, マングローブ域でも強い動物ー植物関係が存在することが確認された. (3)マングローブ林生態系の構造と機能 が異なる. これが局部的な優占種をきめ, Sonneratia帯, 砂丘帯, RhizophoraーBruguiera混交帯, NypaーR.stylosa帯をつくっていることが確認できた. 告されているいくつかの例とあわせて, マングローブ林の相対生長式は, Rhizophora属のものと, それ以外の樹種については分離するが, 地域による分離は認められないことが確かめられた. 地上部現存量の推定結果は, Sonneratia,Rhizophora,Bruguiera林でそれぞれ, 170,300ー360,410ー440t/haに達することがわかった. 地下部現存量をソイル・ブロックによる根密度法によって推定したところ, 40,180ー200,110ー180t/ha・mと算出された. この研究成果はとりまとめて, BIOLOGICAL SYSTEM OF MANGROVES,A REPORT OF EAST INDONESIAN MANGROVE EXPEDITION,1986として, 印刷, 公表した.
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