研究概要 |
近年, Kaposi肉腫Kaosi's sarcomaは後天性免疫不全症候群Acquired Immune Deficiency Syndrome(AIDS)の患者に発生する腫瘍としてにわかに注目されるようになった. Kaposi肉腫は, 身体の四肢とくに下肢や躯幹の皮膚に, 単発性あるいは多発性の, 結節性あるいは扁平な病巣を形成したり, リンパ節や内蔵に出血性あるいは増殖性の病変を生じる疾患である. 病理組織学的には, リンパ管内皮細胞あるいは血管内皮細胞に類似した異型細胞から成る管腔組織とその間に介在する紡錘形の異型細胞が増生している. その初期には炎症性肉芽組織にも類似するので, Kaposi肉腫は感染症と腫瘍疾患との両者の性質を兼ね備えた疾患として病理学的に大変興味ある疾患である. Kaposi肉腫は地理病理学的に以下のような各型に分類される. 1)欧米古典型:古来, 地中海沿岸地方をはじめ欧米で散発する型で, イタリア人やユダヤ人に多いとされている疾患である. Kaposi(1872)が記載したのはこの型と思われる. 成人型が一般的である. 2)アフリカ風土病型:赤道アフリカを中心に南北数百キロメートルの地帯に高頻度に見られる. 多くの患者は中高年の男子である(成人型). 小児に発生する場合は全身のリンパ節に病変が生じ, とくに頚部リンパ節が侵されると外観的に小児のバーキットリンパ腫に類似する(小児型). 3)AIDS流行病型:AIDSのうちとくに男子同性愛者に併発する型である. したがって比較的若年者に多い. 4)腎臓移植患者, 悪性リンパ腫など何らかの免疫不全の状態に併発する型. 研究成果の概略は以下の如くである. 1.アフリカ風土病型Kaposi肉腫の発症について自然環境や人類生態がどのような影響を及ぼすかについて人類および動物の生態学者, 環栄生理学者, 公衆衛生学者, 疫学者などとともに学際的シンポジウムを開き討議した(学際的熱帯医学シンポジウム:人類の生態と疾患の発現様式.1987年1月長崎). アフリカ大陸ではKaposi肉腫やバーキットリンパ腫は高温湿潤地帯に比較的多いことが指摘された. またKaposi肉腫の発生頻度も部族によって異なることが従来よりもさらに明確になりつつある. つまり, Kaposi肉腫の発生には自然環境, 生活様式, 遺伝的素因など多くの要因が関与していることが推察された. 2.アフリカ風土病型Kaposi肉腫, とくにリンパ節原発型の病理形態学的特徴についてさらに詳細に検討した. AIDS流行病型のリンパ節原発型とは病変の発生部位において多少とも異なることを見出した. 3.Kaposi肉腫の組織中に見出される分泌物について組織化学的に検索した. 4.3型のKaposi肉腫(欧米古典型, アフリカ風土病型, AIDS流行病型)についてそれらの病態像の差異についてさらに資料を充実させて検討を続けている.
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