研究概要 |
調査は, 火災による植物の被害状況, 植物群落の変化, 動物相の変化, 及び, 土壌浸蝕の程度について行った. 1982〜1983年にかけて降水量が著しく減少し, 多雨林の構成種のうち, 高木はおおむね枯死し, 林床に落葉を堆積した. これに焼畑農耕の火が移って森林大火災になったもので, 枯死と焼失などの影響を受けた面積は310万ヘクタールと推定されている. 1.火災による影響は二つの場合に分けられる. 一つは火災以前に樹木の伐採を行っていたカユマス林道沿いの部分である. ここでは, 林床に伐採の時の木材片や枝葉が堆積しており, それが直射光で乾燥していたことと, 伐採後の低木林が成立していたことのために, 火災の影響は最も大きかったと考えられる. 他の一つは, 伐採の影響を受けていなかったか択伐を受けていた森林で, 火は林床に堆積していた落葉を焼いて走ったといわれている. 希に蔓本にからまれた高木は, 樹冠部まで焼け焦げていたものが見られた. このような森林では, 低木層は火が著しく滞留した部分では焼け方がひどいが, 概して, 焼け方が林道周辺よりも激しくないようだ. 2.完全に焼けた林道沿いでは, Macaranga spp.,Mallotus spp.,Glochidion capitatum,Homalanthus populuneus,Anthocephalus chinensis,Duabanga moluccana,Tristania whitiana,Evodia aldaなどの二次先駆種が純林に近い二次林を付っており, 火災被害の少ない林分でも, 激しく焼けた部分には上記の種が見られた. 火炎が及んでいない部分の自然林は場出によって種組成が異なり, われわれが調査したのはDryobalanops林, Shorea spp.林, Eusideroxylon林の3型であったが, いずれも最高63mに達する巨大樹木の茂る森林であり, 上記の二次林の先駆種は殆ど見られなかった. 3.焼失した地域で, 萌芽更新する種について注意を払ったが, Eusideroxylon zwageri以外には殆ど見られず, 火災後の森林の回復はすべて, ジネットによって行われると推察された. A333のEu.zwageri個体は自然林で107個以上の巨大な果実を生産していたが, 火災跡地では果実を殆ど見なかった. 小さな果実をつけるものについては見落としがあるかと思うが, 火炎後に大型の果実をつけていたものはBorrasodendron sp.(ヤシ科)Parinaria sp.(バラ科)であった. 火に対する耐性種のスクリーニングも今回の調査対象の一つであるが, 未だ植物の分類が完全には済んでいないので, 結論は出されていない. 4.火災によって完全に焼失した部分, あるいは部分的に焼失した部分では土壌の流亡が激しく, 土壌の分布していた根系が露出し, 林床の表面を根系の網が覆っている状態がどこでもみられた. 土壌侵蝕の速さは自然林で年間0.3mm以下(傾斜角15°)であるのに対し, 焼失地域では2.5mmから4mmに達した. 傾斜角度が急になるにつれて, 侵蝕速度は大きくなるが, その割合が焼失部分で極めて大きい. 40°の斜面では年間1km^2当り4,000〜5,000m^3もの土壌が流出することが分った. 5.動物のファウナについては, 一般的に自然林に比べて, 焼失地域では種多様性が極めて低くなっている. 特に土壌の中に生息するものよりも, 樹上, 葉上で生活する動物の方がより少なくなっていた. 6.大型動物のうち草食動物は, 火災時に時々焼けなかった"島状林"で生き延びたものも考えられ, 火災後は二次植生の成立とともに, 生活方式を変化させて, 生き残っているものと推定される. 密度については従来の調査がないので増減については判断できないが, Wirawan博士が火災前の調べてあったデータと比べて, 殆ど分布に差がないことを確認した. 7.オランウータンについては, 果実食のものも殆ど, 樹皮や新芽を食べる方向に食性を転換していたが, このために個体密度が特に低下したことはないようである. 密度は1km^2当り1.8頭であった. オランウータン以外の猿類では1982年度の調査に比して, 数が少なく火災の影響を受けていることがはっきりしている.
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