研究概要 |
昭和62年度調査総括により, 昭和61年以前に行われたピグミーチンパンジーおよびナミチンパンジーの単位集団構造, 超単位集団(=コミュニティ)構造, 環境との関係に関する現地調査結果の取りまとめが行われた. 10.に示されるように, 昭和62年度中に出版された論文は4篇, 印刷中論文2篇, 準備中(資料の整理・分析がほぼ終了し, 論文執筆中又はまもなく執筆にとりかかれるもの)5篇である. その概要は以下の通りである. A.単位集団構造 (1)ピグミーチンパンジーの社会には集団内の個体共存を円滑にする多様な行動が発達している. そのような宥和行動の発達は, 森林内の果実資源の密度と分布のパターンに依存したものと考えられる. (加納隆至=代表者, 論文3篇, 出版済) (2)ワンバのピグミーチンパンジーの1集団は, 10年間にわたって雄雌同数性を維持した. この雄雌同数性は, 同種内殺害(加納=集団間闘争と子殺し)の欠如からきており, それがピグミーチンパンジーの社会的特徴となっている.(加納=出版済) (3)ピグミーチンパンジーの交尾行動は, 繁殖行為としての意味よりも, オス・メス間の緊張を緩和する宥和行動としての意味あいが強い点で人間の性行動と同様な用いられ方をしている. (加納=印刷中). (4)ピグミーチンパンジーのある集団のαオスは, オス・クラスターの中核的存在として機能している.別の集団ではαオスは若年であり, 母親との結合によって集団を支配している. このように, ピグミーチンパンジーの社会では, αオスの役割は固定的ではない.(五百部裕=教務補佐員,印刷中) (5)マハレのナミチンパンジーのオスの社会的発達は, 従来考えられていたよりも遅く, 若いオトナ・オスはオス結合(malebond)に加入できず, 壮年期に入ってはじめて加入できる. (川中健二=分担者, 準備中) B.コミュニティ構造 (1)ピグミーチンパンジーの社会では, 集団を移出入するのは若い未経産メスに限られる.見知らぬ集団に移入する時若いメスは特別な戦術を駆使する. すなわち彼女たちは, 集団の経産メスのうち1〜2頭を標的個体として追従し, 社会接触を積極的に求めていくことによって, まず, それらの長年メスからの承認を受けることを, 移入のための突破口とする. (伊谷原一=教務補佐員, 準備中) (2)昭和61年度のワンバにおける現地調査で, E.ナ_<1.ニ>集団とP集団の間で興味ある集団間交渉がみられた. この2集団は, 以前は対立関係にあってどちらかが一方を避けることによって, 直接の出会いが回避されていたが, 昭和61年度には餌場に共在することが多くみられるようになった. その際, 両集団の間で攻撃的交渉はもちろん見られたが, 性行動・擬似的性行動(宥和的行動)・グルーミング・のぞき込み行動遊びなどの親和的交渉も多数例みられた. オス間では攻撃的交渉が支配的であったが, メス間や, オス・メス間の集団間交渉は, 集団内交渉と差がないほど親和的であった. このような親和性の深い集団間関係は, 人間以外の霊長類社会では類がない. このようなワンバE.ナ_<1.ニ>集団とP集団の関係からみると, ピグミーチンパンジーのコミュニティ構造は, 多様で可塑性であり, 人間型のコミュニティに発展する素地を持った原初型である可能性を有している. E.ナ_<1.ニ>,P集団がどの程度まで親和性を深めていくかは, 将来の観察を待たねばならないが, 昭和61年度までの資料を基盤にした報告書を近く発表する予定である. (加納,伊谷,準備中) C.環境との関係 (1)昭和57年度から昭和61年度まで3次にわたって, ワンバにおけるピグミーチンパンジーの食物分析が行われた. この分析の特徴は, 現地でビタミンCの定量分析まで行ったということであり, これは, 霊長類の野外研究では最初のことである. (安里龍=分担者, 準備中) (2)昭和61年度にピグミーチンパンジーとアカコロブスとの直接交渉が観察された. この交渉の型からみるとワンバのビグミーチンパンジーは, タンザニアのナミチンパンジーと違って, アカコロブスを補食する可能性は低い. (五百部,印刷中)
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