研究概要 |
昭和61年度実施の海外学術調査(本調査研究)により収集したシンガポール住民(中国人, マレー人, インド人)の唾液資料について, ヒト耳下腺唾液蛋白の遺伝的多型形質を調査し, 各標識における遺伝子頻度を算出することにより, 遺伝的構成の民族的な特徴を明らかにする. これらの検査成績をすでに報告されている日本人やフィリピン人の成績と比較し, アジアにおける各民族の近縁性について検討を加える. シンガポール在住の中国人215, マレー人220, インド人109の耳下腺唾液を採取した. 採取に先立って, 被検者の人種, 両親の人種, 出生地, 年齢, 性別についても同時に調査した. 唾液の多型の調査については, 多型性のPRPの, Pr, Pa, Db, PIf, As, Au, Ps, Gl, PmF, PmS蛋白を検出した. 酸性PRPはPRH1^1(Db), PRH1^2(Pa), PRH1^4(PIf), PRH1^5(As)の4つのallele, およびPRH2^1(Pr1), PRH2^2(Pr2), PRH2^4(Au)の3つのalleleに分類した. また塩基性PRPについてはPs, PmS(PmF), G1蛋白をそれぞれ独立の遺伝子座位として扱った. 表は各遺伝子座位の遺土子頻度を, 参考のため日本人, フィリピン人の結果とともに示したものである. 5人種のうちそれぞれ2人種間の遺伝子頻度の均質性の検定を行なったところ, PRH1遺伝子座位については日本人と他人種との間, 及びフィリピン人とインド人との間, Ps蛋白については日本人と中国人, マレー人, フィリピン人との間, 及び中国人とマレー人との間, PmSの遺伝子座位についてはインド人と他人種との間に有意差が認められた. 今回の研究結果によりPRH1^4(As)alleleおよびG1^<5ー8>についてはモンゴロイドマーカーであり, Ps^4についてはマレーマーカーである可能性が示唆された. 日本人を除いたアジア人集団における唾液多型の報告は, PmF, Ph, Paについての報告があるが, 中国人, マレー人, インド人を対象とした唾液蛋白の多型についての総合的調査は, 本研究が最初の試みである. その結果, 前記のごとく人種間の遺伝的構成の差異, さらに人種マーカーの可能性のあるalleleが見いだされた. これらは今後の人類学的遺伝学的研究における唾液の多型の有用性を示すものである. 今回当初に予定していた集団間の遺伝距離についてはまだ検討を加えていないが, これは今後Pb型, Amy.ナ_<1.ニ>型等の調査をした後に検討を加えてみたい.
|