研究概要 |
本研究の目的は, 北ケニアの乾燥地帯で牧畜生活を送るパラ・ナイル系と東クシ系の諸民族を取り上げて, 当該牧畜社会の社会生態学的適応機構を明らかにし, あわせて, そのような個々の適応機構を文化系統の差異を考慮に入れて比較研究することにある. パラ・ナイル系の中からは, トゥルカナ,チャムス(ジェンプス),サンブルの3民族を選び, 東クシ系の中からはレンディーレ,ガブラ,ボラナの三民懸を選び, さらに乾燥地域への適応を問題にする上から, 狩猟採集民のハッザ族を選び, 上記の研究課題の解明を試みた. 1.個々の牧畜社会の社会生態学的適応機構 レンディーレ,サンブル,トゥルカナ,ガブラなどに関しては, 先行研究によって, 生態学的側面の概要を得ている. 今回,レンディーレに関しては, 肉分配とラクダ移譲に着目して,社会関係網のあり方と集団統合機構の分析を行なった. とくに,ラクダ移譲に構造的原理が不可分に関わっていることが判明した. ガブラに関しては, 家畜移譲の資料収集とあわして, 近隣諸民族との類縁関係と社会経済的関係の分析を行ない, 北ケニアにおける民族関関係のあり方に考察を加えた. トゥルカナに関しては, 行動人類学的視点から, 相互交渉の成立契機と物乞い行動を分析することによって,トゥルカナに自己誇示性が強く認められることが判明した. サンブルに関しては, 居住集団と放牧共同の詳細な分析を行ない, 同じ文系集団の者が近隣集団を形成すること, 集落放牧とキャンプ放牧では, 放牧共同の人間関係に対照的な相違がみられることなどが判明した. チャムスに関して, 生態学的知見が欠落していたので, 今回は基礎的資料の収集を行った. とくに, 居住集団の分析によると, その柔軟で分散的な傾向が明らかになり, 生態的移行帯における生業適応を解明かる上で重要な知見を得た. 2.社会生態学的適応戦略の比較研究 佐藤は, 牧畜社会には二つの対照的な適応戦略が認められることを指摘している. その1つは, レンディーレ,ガブラ,ボラナなどの東クシ系牧畜民の認められる集団主義的適応戦略である. ひう1つは, トゥルカナなどの中央パラ・ナイル系牧畜民に認められる個人主義的適応戦略である. そして, 南パラ・ナイル系牧畜民(マサイ,チャムス,サンブル)は中間的位置を占めるとみなされる. 今回の研究によって得た知見は, 予備的であっても, 上記の仮説に矛盾するものではない. しかし, 家畜移譲体系,家畜群と人口との通時的構造,家畜文化複台などに関するより詳細な資料の収集が巣要とされる. 3.社会進化史的考察 ハッザ族に関しては, とくに肉の獲得量の分析から, 自給レベルをはるかに越える肉を得ていることが判明した. また, サンとトゥルカナとの非言語的伝達様式の比較によると, 相互交渉を成立させる態度に対照的な相違が認められることが判明した.
|