研究概要 |
1966年,蒙古系民族を特徴づける標識遺伝子Gmab^3stの発見を緒として,日本人集団を中心に東南アジアから南米に至る蒙古系民族について,ヒト免疫グロブリンの遺伝標識(Gm)を用いて,分子生物学的な視点から集団遺伝学的な解析を進め十分な成果をあげてきた. 1983年秋より,ソ連科学アカデミーとの共同研究が,同主題でスタートした. 本調査研究においてはこれまで空白となっている中国本土の35をこえる蒙古系民族について主題の調査研究を進め,新しい視点から中国内諸民族について人類遺伝学的解析を行うことが本研究の目的である. (1)世界に分散する蒙古系民族にはGmag,Gmafb^1b^3,およびGmab^3st遺伝子の分布について明らかな遺伝子勾配がみられる. (2)Gm遺伝子頻度に基づいた遺伝的距離の解析によって,蒙古系民族は大きくは2つのグループに分けられる. 即ち,高い頻度のGmafb^1b^3遺伝子と低い頻度のGmag遺伝子をもつことによって特徴づけられる『南方型蒙古系民族』,これと対照的に極端に低い頻度のGmafb^1b^3遺伝子と高い頻度のGmag遺伝子およびGmab^3st遺伝子をもつ,日本民族を含めた『北方型蒙古系民族』である. その間に,北は朝鮮民族と蒙古民族,南は中国の西安と杭州の漢民族を結ぶ線を界として地理的勾配の最も著しい漢民族が存在する. 北方型蒙古系民族と南方型蒙古系民族の中間の型としてみられ,南部では南方型の影響を,北部では北方型の影響をより強く享けている. (3)チワン族,シュイ族,ブイ族,カダザン族などで最も高い頻度でみられる南方型蒙古系民族を特徴づけるGmafb^1b^3遺伝子の源流は中国南西部(雲南,広西)にある. (4)日本民族において,高い頻度でみられるGmab^3st遺伝子は,バイカル湖畔のブリアートをピークとして四方へ流れている. 蒙古(ソ連),オロチョン,朝鮮人,日本人,アイヌ,チベット,コリヤーク,エスキモー等で高い頻度でみられるが,北米から南米へ,また中国から東南アジアへ険しい落差を示して消失している. 一方,回族,ウイグル,インド,イランから遠くハンガリー,イタリーのサルジニア島の白人種にもシルクロードなどを通して,このGmab^3st遺伝子が持ち込まれており,これら諸民族の蒙古系民族との混血の割合は数値として捉えることができる. そして北方型蒙古民族を特徴づけるGmab^3st遺伝子の源流はバイカル湖畔にある.
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