研究分担者 |
吉 永華 中国科学院, 上海生理研究所, 助手
徐 科 中国科学院, 上海生理研究所, 教授
梅 鎮〓 中国科学院, 上海生理研究所, 所長
木村 能章 岡崎国立共同研究機構, 生理学研究所, 助手 (60161585)
寺川 進 岡崎国立共同研究機構, 生理学研究所, 助教授 (50014246)
MEI Zen-Tong Shanghai Institute of physiology, Academia Sinica
XU Ke Shanghai Institute of Physiology, Academia Sinica
JI Yong-Hua Shanghai Institute of Physiology, Academia Sinica
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研究概要 |
寺川と木村が1986年6月に上海に出張し, 徐科, 吉永華とともに7月一杯河南省と新彊ウィグル自治区にてサソリと毒グモの分布調査と採集をした. 8月に上海生理研究所にてこれらの動物の毒を集めて粗毒の精製をし, 電顕標本作製, 神経線維の電気生理学的研究などを行なった. 9月から11月まで徐科, 吉永華を招聘しサソリの神経毒の構造解析, 毒を利用した電気生理学的研究を行なった. 1987年には血液のイオン組成の分析と電子顕微鏡観察, 及び電気生理学的研究の継続を行なった. サソリは, 河南省では鄭州市郊外, 洛陽に近い龍門溝, 少林寺近くの登封などの小高い丘や畑地において採集できた. 新聘ウィグル自治区では, 鳥魯木斎(ウルムチ)周辺の高原地帯と天山山脈の南側のタクラマカン砂漠とを調査した. 高原地帯ではサソリは全く見られなかったが, トルファン, アクス, カシュガルといったオアシスの街の辺縁にはわく見つかった. こちらのサソリの方は河南省のものに比べてずって薄く, 太陽光の下で, 透明に近い黄色や緑色に見えた. 緑のサソリは世界的にも珍しい物であるが, 緑に見えるのは,砂漠の強い紫外線のために, サソリの殻にある色素が蛍光を発するためであった. 鄭州とアクスの街の近くにサソリを養殖している農家も見つかった. 河南省に生息するサソリは, 形態的特徴からは極東サソリ(Buthus martensi Karsch), タクラマカン砂漠のサソリはむぎわらザソリ(Buthus przewalskii Birula)であった. サソリに関する研究による次のような成果が上がった. 6ー9は発表済み, または準備中である. 1)サソリの蛍光はその殻にあり, 吸収極大は460nm, 発光極大は510nmで,それらの波長は大変離れていて蛍光色素としての利用価値がある. 2)サソリの眼は青から緑の光に対しては良く反応し, 600nm以上の波長の赤い光に対してはほとんど反応しないことがわかった. 3)サソリを, 尾の長軸を中心に半回転すると, 頭頂部をいつも上に向けるように体を捩るのででこかに重力を感ずる器官が有ることが分かった. 4)堅い殻の一部を針などで軽く擦るとその節と隣の節との間隙が縮まるような反射が起こるので, 殻にはメカのセンサーがあることが示唆される. 5)体毛の毛は他の昆虫などの所在を探る振動センサーとして働くと考えてられているが, この毛は空気流以外に静電力にもよく反応して動くので, サソリの感覚として静電力が関与していることも考えられる. 6)サソリ毒の精製を行い, 3種類の主たる毒素を得た. その一つの毒素として昆虫によく作用するタイプのものを見つけそのペプチドの一次構造を決定した. 7)サソリの神経の興奮性せ人工生理食塩水中で観察し, 血清の無い条件下で, これに対するサソリ精製毒の作用を調べた結果, サソリの毒はサソリの神経には全く効果がないことが分かった. イソギンチャク毒もサソリ毒同様, 効果がなかった. しかし, ふぐ毒とグラヤノトキシンは可逆的抑制効果を現わした. これから, サソリのNaチャンネルにはサソリ毒結合部位が欠損していることが分かった. 8)サソリ血液のイオン組成を調べ, これが陸上動物としては非常に高い浸透圧を持っていることを明らかにした. 9)腹部神経線維の構造を電子顕微鏡で調べ, 巨大神経の無いこと, 極く原始的なミエリン構造があることを見いだした. 毒グモは伊〓地方の極めて狭い地域にのみ分布している. やや乾燥した, 短い草のはえた平原の地中に, 直径2ー3cm, 深さ50cm位の垂直な穴を掘ってその中に生息している. 似た様子の平原が天山山脈の南側にも随所に有ったがクモを見つけることはできなかった. 伊 地域で, 約200匹の生きたクモを集め鳥魯木斎の化学研究所で毒腺を摘出し粗毒を得た. これはゲルろかクロマトグラフィーによる5つの分画に分け現在凍結乾燥し存在してあり, 研究準備中である.
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