研究概要 |
1986年度の調査によって入手した資料をもとにして, 本年度は各自が研究をとりまとめ, 共同研究会での発表, 討論を行ない, 現在までのところ, 研究発表の項目のごとく, 雑誌論文8編, 単行本中の論文3編, 単行本1冊の成果を生み出した. これらの内, 3編は英文で, 1編はPNGの言語であるピジン語で書かれたものである. セピック河と中央山脈との中間地帯の文化的共通性をさぐるために, この地域の人の移動と民族の形成に焦点を合せ, 研究会を開き, その成果は2編の英文の論文(Yoshida,Yamada)となった. これによって, この地域の人々の動きの基本的パターンが明らかになってきた. そして民族の形成に際して, 異なったエスニック・グループが融合できる文化的共通性も明らかになってきた. しかし, より広範囲の民族の移動史を比較検討しなければならないこともより明瞭になってきた. 各自の研究においては, メイ川のイワム族の調査にあたる吉田は, 生業にかかわる問題から呪術へと焦点を移し, それに関連した3編の論文を発表した. また, 過去のものとなった部族間戦争, 呪術, そして現在彼らがかかえている問題をあつかった民族誌的な報告を一冊の本としてまとめた. ワォガムシュ川のヤビオ族の調査にあたった斎藤は, 主として神話の分析に力をそそぎ2編の論文を発表した. 斎藤は神話をベースとする食物規制, ヤビオ族社会の構成の特質へと研究を進めている. コロサメリ川のワケ族を調査対象としている山田は, 儀礼の中にみられる音楽の分析から, 神話との相関性, さらに社会構造との相関性を見い出した. その一部は2編の論文として岩波講座シリーズの中に含められることになっている. 山田はさらにこの分析と統合を進め, それらをまとめて学位論文となそうとしている. メイ川上流のミアンミン族の調査にあたった熊谷は, 特に移動の問題と近代化の問題をあつかってきた. 近代化については, 彼らの世界観との相関関係を分析し, 彼らが外界に対応できなかったのではなくて, むしろ早すぎた対応のために外界とのバランスがとれない困難な状況を指摘している. また, 1986年に収集した民族学的柏料約150点はPNG配立博物館に寄贈し, 約320点は製理し情報カードをつけて国立民族学博物館に寄付された. 傾語資料についてはコンピューター入力を行なった. これらについては, 打ち出された資料を再び現地でチェックするとともに, さらに資料を追加して, より完全なものとしてゆきたいと考えている. 音響資料としては, 山田が採集した音楽テープ60本があり, ダビングされた1セットはPNG研究所に寄贈され, オリジナルは山田が整理し保管している. 植物標本については, 1セットは京大理学部さく葉館に, 他の1セットはPNG森林局に寄贈された.
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