研究分担者 |
長方 正博 関西学院大学, 文学部, 研究員
馬場 雄司 三重大学, 人文学部, 講師(非) (10238230)
鈴木 道子 岐阜教育大学, 教育学部, 助教授 (80154590)
樋口 昭 埼玉大学, 教育学部, 助教授 (60015287)
高橋 昭弘 中京女子大学, 家政学部, 教授 (10097660)
OSAKATA Masahiro Researcher,Kansei Gakuin University,Faculty o Literature
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研究概要 |
1.当調査の目的と課題について 文部省科学研究費補金によって行われた昭和57年度の「ネパール民族音楽学術調査」および59年度の「ネパール東部・シッキム民族音楽学術調査」に続く今回の「インド東北部・ブータン民族音楽学術調査」は, 従行のヒンドゥー文化圏の影響を離れて, チベット・ビルマ語族文化圏の真っただ中に拠点を移す調査を目的としている. いわゆる照葉樹林文化の半月弧の中に焦点が当てられ, これまでの科研調査の成果で得られた, ヒンドゥー文化やヒンドゥーと仏教の複合文化における民族音楽との比較研究を行なうと共に, 諸民族の伝承される音楽文化に関する情報とデータを多量に収集し, 音楽の伝播と変容の課題に新たな展開をもたらそうとするものである. 2.新たに集積されたデータについて ブータンにおいては, 民族音楽を含むフォークロア関係の学術調査は日本では初めてであり, 今回行ったブータン中・西部(首都圏のパロとティンプー, および中央部のトンサ地区)での調査で, ブーンタンの主要民族ブータン人の伝統的な歌唱・踊・楽器, ならびに儀礼とそれに伴う音楽現象のデータを各種収集し, チベット系文化に関するベーシックな概観を把握することを可能にした. またインド東北部地域の調査としては, 当地域のグルカランド独立運動による治安上の関係で, シッキム周辺地域にフィールドが限定されたが, これによって, シッキムのレプチャ族やリンブー族等のチベット・ビルマ語族の音楽文化に関する情報が強化された. しかも当地城に併存し, かつ, メジャーとなりつつあるネパール人等のヒンドゥー音楽文化やライ族・リンブー族といったネパール地域とにまたがる少数民族の固有の音楽文化との対比を容易にしたのである. 3.成果の意義と要点 研究分担者はそれぞれ専門とする分野が民族音楽, 比較文学(フォークロア), 民族歴史と儀礼および芸能文化というように多岐にわたっているため, フィールドで集積されたデータも, 多様に分解され, それぞれの分野での解明に利することとなった. 民族音楽の分野では, 日本の沖縄と共通する音階構造や歌唱構造を新たに数多く見出すとともに, フォークロアや儀礼・芸能の分野では, モンゴルやチベットからネパールに至るチベット大乗仏教(ラマ教)圏下での共通して口頭伝承(輪えば英雄ケサルの叙事詩)やカンチャンジュンガを始めとする山岳信仰的儀礼と音楽の結びつきなどが際立った特徴として把握されたのである. また, チベット・ビルマ語系の中でも従来注目されることの少なかったライ族・リンブー族等の儀礼が村落でのインテンシブな調査によって解明の糸口がつかめ, その言語・伝承も含めた伝統文化に光があてられた意義は大きい. チベット仏教圏下にありながら, 守られてきた固有の信仰とそれに関わる音楽現象の理解は, 当該地域の基層文化の理解に一層のはずみをつけることとなろう. 4.今後の調査への発展と期待について 次回の調査として当調査隊はブータン東部に重点をおくブータン全土の調査を計画している. それは, 今回の調査が初回であるために中西部の比較的都市部に片寄ったため, 照葉樹林文化帯におけるブータン文化の位置や日本との関わりを論じる上でデータが不十分だと思われるからである. ブータンは近代化へ向けて邁進している段階であり, 新聞テレビ等の情報活動もその途についたばかりである. しかし彼等の民族文化に対する関心は極めて高い. 今回の調査によってつちかわれたブータンのこうしたことに携わる人たちとの協力関係を育て, ブータンの各地方文化の学術的調査記録保存に役立つことができれば幸いと考えている.
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