研究概要 |
1906ー08年の第二次中央アジア探検においてS.A.Steinによって蒐集された敦煌チベット語文献は, 現在India Office Library and Records(IOLR)に所蔵されている. 東洋文庫は, 1950年代初頭にマイクロ・フィルムによってそれを将来し, 多年学界の利用に供してきた. 更に利用の便を考慮して, 『スタイン蒐集チベット語文献解題目録』既刊11分冊を刊行してきた. その編纂過程で少なからぬ問題が生じた. その根本的な原因は, 従来の調査がすべてマイクロ・フィルムという, 現物に比べてはるかに情報量の少ない資料のみに基づいていたことである. そこでそれらの問題点を解決するために, 昭和61年8月から11月にかけて東洋文庫の研究員を中心とする7名の調査隊が, イギリスのIOLRにおいて写本の現地調査を行なった. IOLRは, もともとはイギリス外務省のインド局附属の図書館であったが, 1982年になって大英図書館の一支部に組み入れられた. スタイン卿が中央アジアや敦煌で蒐集した文献のうち, 漢文文献と若干の諸国語文献は, 同じ大英図書館の東界支部(Orintal Manuscripts and Printed Books)に保管されている. IOLRはチベット語, 梵語, コータン語, クチャ語等の文献が収められている. スタイン蒐集チベット語文献の保在形態は, 大きく二つに分かれている. 第一は, 冊子状のもの, あるいは巻物状のものなどである. ばらばらに台紙に貼付けることができないので, BOXと書かれた段ボール箱に入られているか, または何冊かを束ねてひもで括られている. これらはもっとも整理されていない文献である. その中には『無量寿宗要経』を書写したものが大量に含まれていた. 第二の保存形態は, ちょうどアルバムのように写本の一枚一枚を台紙に貼り, その大きさ毎に皮表紙の本に綴じ, 各巻にはVolume1からVolume73までの番号が付けられている. このうち, Volume10(No.216)およびVolume41は, 現在所在が不明である. 各巻の巻頭には, Dr.F.W.Thomasが書き, 後にMiss A.F.Thompsonが校訂したIndexが付されている. この調査の主たる対象であるチベット語文献の調査報告を, 東洋文庫は昭和62年度に『スタイン目録』第12分冊として刊行した. その中で従評の問題点がどの程度解決されたかを簡単にまとめておく. 1.既刊目録において空欄のままになっている文献のうち, No.235,255,288,289,327,543,549,563の8点を除くすべての文献の所在を確認することができた. 残る8点は, プサン目録が作成されて以後, IOLRにおいて粉失されたものと思われる. 2.BOXとして分類されているものと, Volume1からVolume73まで(Volume10と41の上の事情で除く. )の全71巻のすべてのページについて, IOLRが打ったナンバー, スタインが写本に導き入れたStein番号, プサン番号を確認したリストを作成した. これは整理の上, 『スタイン榛録』第12分冊に収録した. 3.従来判読不可能であった文献については, フィルム撮影では限界があると思われるので, できる限り書写してきた. これが, 『スタイン目録』第12分冊の成果の大部分を占める. 4.F.W.Thomasが, Ancient FolkーLiterature from Northーeastern Tibet(Berlin1957)およびTibetan Literary Texts and Documents concering Chinese Turkestan:Part II(London1951)で使用した文献の多くはプサン番号が与えられていない. これらは, 歴史的な資料として貴重なものを含むが, 写本の状態の悪いものが多い. それらについても, 写本の所在を確認し, 既刊目録に含まれていないものや, 判読不能であったもののカードを作成してきた. これらも所在を示すリストとともに『スタイン目録』第12分冊に収録した. 5.チベット文献の裏に漢文文献が書写されているものについては, プサン目録のAppendixに研究代表者榎一雄の作成した目録が掲載されている. それらの所在についても調査し, その一覧表を『スタイン目録』第12分冊に収録した.
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