研究概要 |
本調査報告は, 昭和61年度に実施されたザィール, タンザニア, エチオピアを中心とする赤道アフリカにおける海外学術調査(現地調査)で得られた調査資料を整理し, 伝統農業の技術・経済・社会の構造を分析し, あわせてその内発的発展の諸条件を考察することを中心的な課題とした. 課題達成のために「アフリカ農業研究会」を組織し, 本調査総括の研究代表者, 研究分担者の他, 昭和61年度現地調査の参加者やアフリカ農業に関心をもつ農学, 経済学, 文化人類学などの研究者が参加し, 研究発表と活発な討論をくりひろげた. アフリカ農業研究会で報告されたテーマと発表者は以下の通りである. 「方名の認知と品種の多様化の成立機構」(重田眞義), 「富者と貧者ーそのバクム的形態」(杉村和彦)(以上, 1987年7月11日), 「東アフリカにおける伝統的かんがいの組織と技術」(吉田昌夫), 「ザイール東部における伝統的社会組織と農業発展」(末原達郎)(以上, 1987年10月31日), 「アフリカ農耕民の基本的概念群」(米山俊直), 「『近代化』をめぐってー日本からのアフリカ」(祖田修)(以上, 1987年12月19日), 「アフリカ農業発展の内発的要因について」(坂本慶一), 「アフリカの比較農業生態」(津野幸人), 「混作・共食・山羊ーザイール焼畑農村の経済構造をめぐって」(杉村和彦)(以上, 1988年2月9日). 上記の研究活動を通して以下の諸点が明らかになった. アフリカの伝統農業の中心をしめる焼畑農業には一定の合理性が認められるが, 今日, 人口増加や社会変化の中で休閑期間が短縮し, 土地荒廃の原因となっている. この点について, 本研究会では, 農業の集約化をめざす一つの方向として水田技術の導入, 普及の可能性が検討された. すなわち, 水田の卓越する東南アジアと比較しても, 赤道アフリカには, 気象学的・作物学的に稲作の導入普及可能性が存在する. アフリカの伝統農業の中にもタンザニアのパレ地域に見られるように伝統的潅漑システムを有する地域が存在し, このような方向での内発的発展の可能性がある. またアフリカの伝統技術の中で再評価されてきている「混作」技術に関しては, 農民の価値意識, 生活連関でその技術的意義を捉える農耕システム論的な視角から研究がなされ, その優れた技術的側面が明らかにされた. ザイール, キサンガニ地域での調査結果によれば, 農民は, 農業生産の「安定性」とともに「多様性」実現の機能を評価し, (1)作物の多様性, (2)栄養の多様性, (3)作物品種の保存・維持機能, という三つのレベルから「混作」を評価している. アフリカ伝統農業における多様性の強調は, エチオピア, アリ地域におけるエンセーテ・バナナの栽培にも見出すことができる. この地域でアリの人々は遺伝子銀行に優るとも劣らない厳密なやり方で栽培品種を保存している. 今回の調査総括によってわれわれは, 伝統農業の諸技術には一定の合理性があることを明らかにし, さらにそれ自身のいっそうの内発的発展に向けての技術的・経済的・社会的条件について検討することができた. 今後の課題として, アフリカにおける伝統農業発展の諸条件の研究を, コミュニティ・レベル, 地域レベル, 国民経済レベルでの深化とその相互連関の中で進めていくことが重要である. われわれは, このような研究によって「アフリカ型農業革命」を展望できるものと考えている. さらに, アフリカ諸国における流通過程の研究が重要であり, 昭和61年度現地調査でも, ザイール河の流通機能に関する社会経済的研究を行い, 調査資料をも収集したが, その分析は現在継続中であり, いまだその成果を出すまでには至っていない. この点はアフリカの伝統農業の内発的発展を目指すわれわれの今後の諸研究において一つの中心的課題となるであろう. なお, 本調査研究の成果として, 欧文の研究報告「The Structure of Technology,Economy and Society of Traditional Agriculture in Equatorial Africa」が刊行された. これとは別に, さらに『赤道アフリカ農業論』を出版する予定である.
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