研究概要 |
数年前, 賀田らによって発見された, 核酸の形質転換能のトリチウムによる不活化が, 照射線量率が低い程効率よくおこるという研究結果は, 学問的に興味深い結果であるだけでなく, 生物的には重要な発見であると考えられた. 高倉,石川は, 大腸菌とそのプラスミドDNAの系を用いて追実験し, 同様な結果を得て, 昨年の科研費研究報告で報告した. この賀田効果が, トリチウムに特異的な現象であるかどうかは, 大変重要な事であるが, 本年度は, この点を明らかにするべく, Coー60ガンマ線を用いて, 同様な実験を行い, その結果トリチウム照射と同じ様に, 照射線量率依存性が存在することが明らかとなった. この事により, トリチウム水の照射効果のRBEが正しく評価できるよりどころが生じ, 核酸の一本鎖切断のRBEには, 約0.3〜0.4形質転換能の不活化に対するRBEは, 約1であることがわかった. 酒井は, 高線量率でトリチウム照射された細胞の中の核酸の主鎖切断を調べた. 照射直後の主鎖切断は, RBEが0.6でX線照射に比べ少ないのに, 10時間の修復期間の後の切断は, RBEが1というように, X線照射と, 同ど程度である事を報告している. 朝野は, 放射線分解を抑制して核壊変効果を観測する「希釈剤添加法」を用いて, とりちうむの糀壊変による〔2ー^<>C,5ー^3H〕ウラシルの分解を酸素胞和水液中と, 脱気水溶液中とで調べた. 核壊変による生成物が5種類検出され, そのうちの1つとしてトリチウムがOH基におき変わった. インソバルビツール酸が推定された. 安田は, 核酸にとり込まれたトリチウムによる主鎖切断を調べる研究に取り組むため, その予備実験をPー32を用いて行った. Pー32でラベルされたdCTPが1ヶ所だけ入ったプラスミドDNAの作成に成巧し, Pー32の崩壊に伴う鎖切断をシークエンスゲルで確認することができた.
|