研究概要 |
本研究は(1)各種土壌のトリチウムガスの酸化活性を比較し,土壌から空気中のトリチウムガスを酸化する微生物を分離・同定することによってどのような菌が土壌によるトリチウムガスの酸化に与っているかを明らかにすること,(2)植物に付着する微生物によるトリチウムガスの酸化の実体を明らかにすることを目的とした. その研究成果を以下に述べる. 1.茨城県の山林,水田,畑,海岸松林の各土壌についてトリチウムガスの酸化活性とその季節変化を調べたところ, いずれの土壌でも表層(0ー5cm)の活性は夏に最も高く,最も低い晩秋の2ー3倍であった. これらの表層土壌それぞれから好気条件下で従属栄養的に生育し, 空気中トリチウムガスを酸化する土壌菌を分離した. これらの菌について,形態学的生理学的性状の他, 細胞壁成分やDNAのGC比などの分析による化学同定を行った. 2.松葉の組織結合型トリチウム濃度は水分のトリチウム濃度より高いことが知られている. これは土壌で酸化されたトリチウムを松葉が取り込をためか,松葉自身の酸化活性によるのか,あるいは松葉に付着している微生物による酸化のためかを明らかにする目的で,松葉,樹皮, リター, 松林土壌などによるトリチウムガスの酸化活性を比較した. その結果松葉によるトリチウムガスの酸化は著しく低く,一方松の樹皮は土壌の約5分の1の酸化活性を示した. 樹皮には地衣が付着していたことから他の樹皮に付く地衣や苔,地面に生える苔について酸化活性を調べたところ, いずれもかなりトリチウムガスを酸化することがわかった. 芝,クローバー,ドクダミの葉による酸化は松葉とはぼ同程度で低かった. 地衣は菌類と藻類の共生体であるが,トリチウムガス酸化活性は加湿により著しく増加し,最大で乾燥時の50倍にも達した. また30°C,2時間の酸化産物の97.4%はトリチウム水であった.
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