研究概要 |
本研究は, 文章の理解と生成における人間の情報処理過程を実験的に把握し, その知見に基づいて従来よりも格段に高度な自然言語処理方式を達成することを目的として, 今年度に以下に述べるような成果を達成した. 1.語句の認知過程の観測・分析とモデル化に関しては, まず既知語句に関連して, 前年度に引続き心理実験を行い, 認知単位や内部辞書に関する種々の知見を得た. また, 未知語句に関連して, 新聞記事を素材として未知語の調査・分類を行うとともに, 各種の未知語に対する処理方法を提案した. さらに, 未知語・既知語処理を考慮した語句認知過程モデルを構築した. 2.難解文章の処理過程の観測・分析とモデル化に関しては, 語彙項目の意味的関連性の違いにより構文解析が異なる文章と構文条件により代名詞の指示対象が変化する文章について実験的に検討し, それぞれ意味的整合性のため掛かり受け解析が保留される場合, 代名詞の指示対象が多義的になる場合に反応時間が伸長し, 眼球運動の逆行が生じることが判明した. 3.曖昧文章の処理過程の観測・分析とモデル化に関しては, 辞書的多義性の文脈による解消及び訳語選択における言語的知識と内容的知識の寄与につき実験的に検討し, 多義語の各意味に対する検索のされ易さが大きく異なる場合は, 多義性は後文脈文の処理時間に影響しない, 修正が要求されても意味を切り替えることが難しい, 後文脈文と矛盾する記憶内容は棄却される, 後文脈文を前文脈文として文が再処理される等が判明した. 4.文章生成過程の観測・分析とモデル化に関しては, 日本語文生成において重要な, 高速に動作するとともに自然な形の述語を生成することのできる述語複合体生成アルゴリズムを確立・実装した. また, 対語処理過程で得られる文脈情報を利用し, それによって「何を言うか」を決定するような, What生成アルゴリズムも確立・実装した.
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