研究概要 |
研究実施計画に沿って, 交換相互作用競合系の(相)転移について研究を行った. 主たる測定手段はμ+SRであるが, そのほかに時空尺度の異なる測定手段も積極的に併用して, 相補的な知見を得ることに努めた. 交換相互作用競合系における研究の中心課題は, 低温で現われるスピングラス状態の発現機構およびその性質の解明であるが, 我々はそれらにスピンの時空相関が深く関わっていることを示す多くの結果を得た. 62年度の成果を以下に箇条書きにまとめる. 1.61年度に引続き, イジング系スピングラスFex Mn_<1-X>TiO_3について磁化測定を行い, 特に多重臨界点近傍の濃度-温度相図の様子を精密に調べた. 2.Fex Mn_<1-X>TiO_3について中性子散乱を測定した. スピングラス状態におけるスピンの空間相関は, FeとMnの濃度比とともに系統的に変化することを見出した. これは, 交換相互作用の競合の度合とスピングラスの発現機構の関係の理解に重要な知見である. 3.61年度に引続き, 典型的な常磁性-スピングラス転移を示すFe_<0.5>Mn_<0.5>TiO_3についてμ^+SRの測定を行った. 特に62年度は, 縦磁場冷却がスピン系に及ぼす影響に着目して実験を行った. (1)磁場中冷却をすると, 零磁場冷却に比べて, 低温で緩和率が顕著に大きくなることを見出した. この事実は, スピン系の緩和が磁場履歴によって影響されることを微視的尺度で示している. (2)磁場の印加や切断後のスピン系の平衡状態への推移が, 磁場履歴によって異なる可能性が示唆された. これは, 磁化の長時間緩和と密接に関係していると考えられる. 4.スピン次元の異なるスピングラスの比較検討のため, XY系としてCox Mn_<1-X>TiO_3, ハイゼンベルグ系としてNix Mn_<1-X>TiO_3の単結晶を作成することに成功した. 磁化測定の結果, 中間濃度領域でスピングラスの出現が確認されたので, 今後いろいろな手段の測定へと発展させる.
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