研究概要 |
本研究の目的は, 人間のテクスト(text, 文章)処理の諸課程の解明を通じて, テクストに対する各種の処理のアルゴリズムの定式化を試みることにある. 本年度は, 昨年度に引続き, (テクスト理解時における)"文脈"の構築, テクストの要約, テクスト性(テクストとしての"良さ"や"おもしろさ"など)の評価, の3つの処理のアルゴリズムの発見に努力した. 1."文脈"の構築:従来の成果を踏まえ, テクスト(特に物語)の意味を構造的に表現する枠組み, および話者に関わる文脈を表現する枠組み, のそれぞれの構築に努めた. また, 読み手がテクストの結束性を捉えていく際に利用できる一つの表層的手がかりとして接続詞があるが, その接続詞の存在がテクストの理解や記憶にどのような影響を与えているのかを実験的に分析した. 2.テクストの要約:被験者に物語(オリジナル・テクスト)を読ませ, それを何段階かに要約させる実験の結果から, テクストの意味表象における情報のどのような部分が削除されたり集約されたりするかを規則の形で提案した. また, その規則の心理学的妥当性を検討しつつさらなる精密化を図るため, 物語の要約および記憶再生の実験を繰り返し行った. 3.テクスト性の評価:あるテクストに対する要約を求めると, 各読み手からは異なった要約テクストが産出されてくる. 一般的にいえば, それらの要約テクストの間に"(要約テクストとしての)良さ"の相対的あるいは絶対的評価を与えることが出来る. この評価がどのような要因, 条件, 基準, 手続きによって定まるのかを, 2.の研究と関連させながら調査した. また, その「要約テクストとしての"良さ"」とより一般的な「テクストとしての"良さ"との評価の違いについて比較検討した.
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