研究概要 |
原子核のβ崩壊を担う弱核子流には核力の, すなわち核内メソンの力学的自由度のために, 核子への移行運動量に依存する誘導項がつけ加わる. この中で誘導擬スカラー項についての実験的また理論的な研究が進められる. 今回は, 新しい技術を用いてこの誘導擬スカラー項を高い精度で決定して, 弱核子流の構造とカイラル対称性や保存則の適用限界等についての知見を得る事を目的としている. この誘導項のような微小な物理量を観測するには, 特に, 原子核構造の詳細には依存しない実験手法が必要であり, ここでは核スピン偏極と吸収されるミュオンとの相関を取る実験を行う. 新しく開発する実験方法の基本は, 偏極したμの吸収反応で生成する原子核に移された核スピン偏極とか整列を測定するものである. 今年度は核スピン偏極度の決定に不可欠であるスピン制御法のテストを行い, またこのためにも不可欠な, 短寿命核の結晶中での超微細構造相互作用を調べた. テストにはバンデグラーフ加速器を用いて生成するLi, B, N, F, Oの同位元素について進めた. なお核反応で偏極が得られなかったLi等については, 人工的に偏極を得るために, 斜膜通過による核偏極生成法を開発した. またこれを効率良く進める目的で, 新型の核反応による生成核の静電型反跳核集束器を製作した. そして新核種についての測定準備が整った. また^<12>C(μ^-, U)^<12>B, 反応による^<12>Bの偏極の理論的予言の中に核構造の詳細にわたる, すなわち二次の芯偏極効果を取り入れて予言の精度を上げた. また, 核に束縛されたμ中間子の崩壊にともなうベータ線角度分布を予言した. これは新たな測定量を示唆して, 研究の領域を広げるものである.
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