研究概要 |
光化学ホールバーニング(PHB)は, 極低温において, アモルファス固体中に分子状に分散させた有機色素分子の吸収スペクトルに, レーザー光反応により波長幅の狭い微細な穴(ホール)を生じさせる現象である. 本年度は, テトラフェニルポルフィン(TPP)をPHB分子とし, マトリックスポリマーには, ポリメタクリル酸メチル(PMMA), 芳香族ポリイミド(PI), フェノキシ樹脂(PhR)を用いて, PHB測定をおこなった. 照射にはヘリウムネオンレーザー(632.8nm)を使用した. ホール深さの照射時間依存性は, PIおよびPMMAはほぼ同様であり, 前年度研究したキニザリン(Q)に比べて効率よく穴があいたが, PhR中ではさらに効率が上り, しかも, 添加物がなく再沈精製し, ホットプレスで製膜した試料が最も効率がよく, ホール深さは34%に達した. TPPのPHBは分子内の水素移動互変異性によるものであるが, PhR中では互偏異性した異性体が安定化するものと思われる. 次ぎに4Kでレーザー照射した試料について, 各温度への昇温時(その温度で30分放置)および4Kへの再冷却時のPHBスペクトルを, サイクル的に測定した. まず, 昇温時の測定では, PMMAとPI中では50Kでホールの幅が広くなって消失してしまうが, PhR中では80Kまで加熱してもホールが観測され, 液体窒素温度以上でのホールの検出に, 世界ではじめて成功した. これは, PhRの場合双極子モーメントが小さく分子緩和をおこしにくい硬い構造のために, 電子励起状態とマトリックスとの電子-格子相互作用が小さくなったことによると考えられる. 4Kにもどした時に, ホールが回復する限界温度は, PMMA中では, 110K, PhR中では120K, PI中では130Kであり, 低温でのホールの回復には, 分子緩和の小さい硬いポリマーを使用することが大切である.
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