研究概要 |
ケイ素-ケイ素シグマ結合は極めて良好な電子供与能を有する. 最近, 我々は9, 10-ジシアノアントラセン(DCA)を光増感剤(電子受容対), ポリシラン類を電子供与体とする光誘起電子移動反応を見いだした. 前年度はこの新しい型のケイ素-ケイ素結合切断反応は機構, 適用範囲, 選択性等について研究し幾つかの知見を得た. 本年度は本反応の選択性を決定する上で重要と考えられる鍵中間体, ポリシラニルカチオンラジカルのカチオン部分を補捉して, その存在をより確実にすることを目的に研究を進めた. この種の光誘起電子移動反応で, 中間に精製すると考えられるポリシラニルカチオンラジカルのカチオン部分を求核剤で求核的に補捉することは一般的に難しい. これはDCAアニオンラジカルからポリシラニルカチオン部分への逆電子移動が極めて速いためである. そこでこれら両反応点を分子内に持つ数種のポリシラニルプロパノールおよびポリシラニルブタノールを合成してDCAを光増感剤とする分子内光誘起電子移動反応を検討した. ジシラニルプロパノールのDCAを含むアセトニトリル溶液を光照射するとケイ素-ケイ素シグマ結合が開裂して五員環シロキサンが得られた. また, トリシラニルプロパノールは同条件下対応する六員環シロキサンを少量の五員環シロキサンと共に与えることがわかった. さらに, ポリシラニルブタノールでも同条件下イオンラジカルのカチオン部分が水酸基に捕捉されて対応する環状シロキサンが得られることがわかった. ここではまずポリシラニル部位からDCAの励起-重頃に電子移動が起こって対応するポリシラニルカチオンラジカルが生成する. これは直ちに分子内環化してプロトン化されたシロキサンとシリルラジカルを与え, 次いでDCAアニオンラジカルから逆電子移動が起り環状シロキサンとヒドロシランが得られるとして合理的に理解される.
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