研究概要 |
光増感反応において生成する活性中間体である励起三重項およびラジカルイオンの反応性に関して検討を行った. 励起三重項を経由する反応は通常ビラジカルを経由して段階的に進行するが, 最近, 励起三重項から断熱的に効率のよい反応が誘起される系が見いだされ注目されている. 一方, 励起三重項は放射線化学的に容易に生成, 観測することが可能でありパルスラジオリシス法により各種基質について検討を行った. 単純な環状オレフィンやジエンではその励起三重項の寿命と環の大きさに相関が認められ, ねじれ構造を取れる大きなオレフィンでは寿命は著しく短い上に二量化反応はほとんど観測されないが, 環が小さいか橋架け構造を有するものでは寿命が長く, 二量化速度も大きいことが判明した. また分子内で環化しうるジエンはほとんど寿命を持たなかった. ノルボルナジエンおよびクワドリシクランの芳香族誘導体については両者から共通の異性化の中間体が検出されたが, 芳香族置換基の種類によりエネルギー曲面が異なり, 1,3-ビラジカル, ノルボルナジエン構造の励起三重項, および両者の平衡をとるものがあった. また, 同じ置換基を有するオレフィンではシスートランス異性化の効率が先のノルボルナジエンークワドリシクラン系とよい対応を示したことから励起三重項の構造と異性化, 分子内および分子間の環化反応の効率が密接に関連していることが判明した. 光電子移動反応において生成するラジカルイオンについてはユーロピウムを増感剤とする反応系で検討を行い, THF溶液中でウラシル誘導体を基質として用いた場合に一電子還元反応による位置選択的なTHF付加生成物が高収率で得られた. また, マロン酸エステルのアルコール溶液中の反応においては中間体のラジカルがユーロピウムにより還元されてカルボアニオンを生成し, 位置選択的なアルコール付加体が高収率で得られた.
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