研究概要 |
可視光による光誘導起電子移動過程の分子制御をめざして, 本年度は, 4,4'-ビピリジニウムのイオン対電荷移動(CT)錯体のCT励起による定常的可逆的電荷分離を検討した. N,N'-位に種々の置換基(2個のCH_3, C_9F_<13>C_2H_4とC_3H_7など)を有する4,4'-ビピリジニウムを合成し, 対イオンとしてテトラキス3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル1ボレート(TFPB^-)テトラフェニルボレート(TPB^-), ハライド(Br^-, I^-)等を用いて塩を調整した. これらは, I,2-ジメトキシエタンやメタノールなどの有機溶媒中でそれぞれの構成成分にないイオン対電荷移動相互作用による新しい吸収を示した. TFPB^-塩の場合, CTバンドの吸光度は数十時間で平衡値に達した. 平衡状態の吸光度のJobプロットから, MV^<2+>とTFPB^-はメタノール中で1:1の錯体を形成していることがわかった. 吸光度の時間変化は1:1錯体の生成と解離を考えた速度式で説明された. 遅い時間変化は極めて小さい頻度因子に起因することがわかった. TFPB^-の著しい嵩高さのためと思われる. 溶液中でCTバンドのみを光励起するとTFPB^-塩とTPB^-塩では淡黄色から青色に変色し, UV/VIS及びESRスペクトルから4,4'-ビピリジニウムカチオンラジカルの生成が確認された. ハライド塩では全く変化しなかった. 生成4,4'-ビピリジニウムカチオンラジカルはTPB^-では全く減衰しなかったが, TFPB^-塩では20°Cで約25分の寿命で消失し光照射により再び生成した. TFPB^-の嵩高さと化学的安定性のため電荷分離種が準安定状態になるためと思われる. TFPB^-塩でのラジカル生成と減衰は何度でも繰り返し可能であった. TFPB^-塩微結晶中でも同様に定常的可逆的電荷分離がおこり, 寿命は約47時間に増加した. 分子運動の束縛のため電荷分離種間の反応がさらに遅くなったためである. 本研究成果は, 光誘起電荷分離の新しい展開に寄与すると期待され, さらに検討を進める予定である.
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