研究概要 |
カブトガニの血球細胞は, リポ多糖(LPS)にもっとも敏感に反応する細胞の一つであり, ごく微量のLPSによって血球凝集と崩壊→脱顆粒→凝固系の活性化→ゲル形成など顕著な反応が引き起こされる. これら一連の細胞反応は, 血リンパに侵入したグラム陰性菌をゲル内に被包化, 殺菌するものであり, 生体防御の一環とみなされている. 著者らは, 主に日本産カブトガニを用いて, こうした血球反応を生化学的に解析し, 凝固反応に関与するC因子やB因子, G因子を分離, 精製し, それらの諸性質を明らかにしてきた. さらに, これらの凝固因子を分別する過程で, LPSと結合し凝固カスケード反応を強く阻害する因子(抗リポ多糖因子と命名)を発見し, 昨年度, 日本産及び米国産カブトガニ血球から単離したものの全一次構造を決定した. さて, 上記の研究に並行して, 著者らはLPSによるC因子活性化を阻害する物質の精製を進めてきたが, 本年度その単離に成功した. この物質は血球の膜画分に存在し, 20mMのHClで抽出される分子量2000の強塩基性のポリペプチドであった. 構造解析の結果, このペプチドはアミノ酸17残基から成り, アミノ末端はリジン残基, カルボキシル末端はアルギニンα-アミド基を含み, 下記の配列をもつことが明らかとなった. H-Lys-Trp-Cys-Phe-Arg-Val-Cys-Tyr-Arg-Gly-Ile-Cys-Tyr-Arg-Arg-Cys-Arg-CoNH_2 このペプチドのLPSに対する結合能力は強く, 上記の抗リポ糖因子に匹適するものであった. また, グラム陰性菌の増殖を阻止する作用を示し, かつLPSとの間にゲル拡散法で検出できる高分子複合体を形成することが明らかになった.
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