研究概要 |
有機金属試薬はそれぞれ固有の配位数, 配位能力を持つことが知られているが, 本研究では金属によるヘテロ原子への配位状態の相違を利用し, 光学活性ケトンより三級アルコールの両対掌体を作り分ける手法の開発を行った. 昨年度に引続き窒素および酸素原子との配位について検討するとともに, 酸素原子の種類による配位の違い, さらには硫黄原子を含めたヘテロ原子の配位について検討し, 両ジアステレオ面選択的な反応場の設定を行った. まずフェニルグリオキザールと(S)-プロリノールより得られた光学活性の2-ベンゾイルオキサゾリジンへの付加反応を試みたところ, Grignard試薬やチタン試薬を用いるとカルボニルのre面からの付加が優先し, 特にトリイソプロポキシメチルチタニウムを用いるとS体のみが得られた. 一方有機リチウム試薬やセリウム試薬などを用いるとSi面からの付加が優先することが明かになった. また(R,R)-2, 4-ペンタンジオールより誘導した光学活性2-アルコキシケトンと有機金属試薬との反応を行ったところメチルリチウムとトリイソプロポキシメチルチタニウムを用いた場合カルボニルへの付加方向が逆転することがわかった. また興味あることに水酸基をメチルエーテルとして保護した場合には選択性の逆転は見られなかったことからアルコキシ酸素が特異な配位機能を持つことが示唆された. 次にヘテロ原子として硫黄を含む光学活性β-ケトスルフィドを合成しメチルリチウムとGrignard試薬による付加反応を行ったところ選択性が逆転した. さらに光学活性β-ケトスルホキシド, β-ヒドロキシケトンのアルキル化反応においては, メチルチタン試薬とメチルアルミニウム試薬でジアステレオ面選択性が反対になることを見いだした. このように有機金属試薬の配位機能を詳細に調べることにより, 同一の出発物質の両ジアステレオ面を区別して反応させることが可能となり, 二つの立体異性体を夫々合成することができる.
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