研究概要 |
FeCl_3, ピリジン, ビピリジンをTHF溶媒中で混合して生成する錯体は, 3.5-ジーt-ブチルカテコールのようなアルキル置換カテコールを酸素化する. この酸素機構は種々の点でピロカテカーゼの様な鉄酵素の機構と類似している. しかし, 酸素化以外の反応(キノン生成)が起こること, 選択性制御機構が不明であることなど解決されるべき多くの点が残されている. 本研究では, この錯体を基礎に酵素のような高選択的触媒の改発, 酵素反応機構解明に役立つ情報の収集を目的に, 反応中間体の構造の分光学的解明と拡張ヒュッケル法による量子化学計算を行い, 反応機構の検証を行った. 錯体溶液の電子スペクトルは, ピリジン濃度に著しく依存した. 低濃度のピリジンでは700nm付近に極大吸収を示す錯体が生成した. この錯体は別途にナトリウセヤミキノナトとFeCl_2との反応でも生成したので, ビリジン配位子のないカテコラート鉄(III)錯体と考えられる. 高濃度のビリジン存在下, 例えばピリジン溶媒中では, 550nm, 975nmに吸収をもつ錯体が生成した. この錯体は, カテコール:鉄=1.1の錯体で, 1000nm付近でε=1000の吸収を示すこと, 置換基を^tBu, Me, Hと変えると短波長側へシフトすることから, Fe→セミキノナート配位子への遷移と考えられた. このことはセミキノナート鉄(II)錯体の生成を示唆するもので, 110Kで測定したメスバウアースペクトルにおける高スピン型鉄(II)錯体の存在と一致した. 中間錯体の構造としては種々のものが考えられるが, 分光学的には一義的に決められない点がある. 可能な構造について, 拡散ヒュッケル法で計算すると次のことが判った. 1)カテコールの鉄への配位は, 置換基に近い側のOH酸素の方が強い. 2)単座配位錯体は, セミキノナート鉄(II)への方がカテコラート鉄(III)より安定である. 3)酸素が鉄(II)に配位することによりFe-O^-_2は安定化する.
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