研究概要 |
遷移金属錯体の酸化能力を効果的に利用した合成反応を開発することを目的とし, 多様な原子価をとりうるバナジウムのうちオキソバナジウム化合物を用いた酸化反応について検討した. シクロアルカノンを酸素雰囲気下アルコールを溶媒とし, オキソバナジウム化合物で処理すると, 環開裂酸素化反応が進行し, 基質の置換基によりケトエステル, ジエステルが得られた. ケトエステルが生成する時は位置選択的な環開裂が起こり, 位置異性体の生成は見られない. 窒素中では生成物は殆ど得られなかったので, 酸素取り込みがなされていることが明かである. オキソバナジウム化合物としてはV(0)(OEt)_3, V(0)(OEt)Cl_2, V(0)(acac)_2などが有効であるが, V(0)(OEt)Cl_2が最も活性が高く, 触媒反応化も可能であった. 2-クロロシクロアルカノンはシクロアルカノンに比べ非常に高い反応性を示した. 2-シクロヘキセンー1-オンをV(0)(OEt)Cl_2と反応させたところ, 環開裂反応ではなく脱水素反応に基づく芳香族化が起こり, 相当するアリールエーテルが収率よく生成した. 環の置換基の位置関係は保持されており, アルコキシル基は溶媒のアルコールに由来する. 1,3-シクロヘキサンジオンから得られる3-エトキシー2-シクロヘキセンー1-オンでも同様な芳香族化反応が見られ, レゾルシノール誘導体に変換された. 2-シクロペンテノンではγ位に酸素官能基が導入され, 上記と異なる様式の酸化反応が起こった. シクロブタノンに有機リチウム化合物を付加させたのちV(0)(OEt)Cl_2で処理したところ, one-potで四員環の酸化的環開裂に基づくハロケトンの生成が見られたので詳細について現在検討を行っている. 以上の結果より, オキソバナジウム化合物が酸化能力のあるルイス酸として位置づけられることが明かとなった. また, オキソバナジウム化合物の置換基により反応性に大きな違いがあることが判明した.
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