研究概要 |
昨年, 芳香族化合物に対して大きな分子識別能があることを明らかにした新規シクロファンを疎水相互作用部位として, またジベンゾー18-クラウンー6を静電相互作用部位として有する異核三環性ホスト(1__〜)を合成した. ゲストとして, ジカルボン酸を出発原料とし, メチレン鎖の長さが5(2a__〜), 7(2b__〜)および9(2c__〜)のW-フェニルアルキルアンモニウムピクラートを合成した. 重クロロホルム/重メタノール中, 20, 40, 60℃での1__〜と2__〜の錯体のH-NMRを測定し, 種々の濃度での化学シフトの変化を基に, 錯体の安定度定数(Ks′)を求めた. その結果, 2b__〜は2a__〜および2c__〜よりも約2倍安定な錯体を1__〜と形成する. すなわち1__〜には基質特異性があることが分かった. このような, 異なった相互作用部位の協同による基質特異性の発現は, 従来報告がなく, ユニークな結果である. さらに, Ks′を基に熱力学パラメータを求めた. その結果, この特異性の発現は, 以下の様に考えられる. すなわち, 2a__〜はメチレン鎖が短かいため1__〜の空孔内での自由度を失わず, エントロピー支配の錯形成をする. 一方, ちょうどよい長さのメチレン鎖をもっている2b__〜は, 1__〜の空孔内での自由度を大きく失いエントロピー的には不利であるが, ベンゼン環と1__〜のシクロファン部位との相互作用により, 失なったエントロピーを補って余りあるエンタルピーを得る. その結果, 20℃では全体として2b__〜のKs′が一番大きくなるが, 高温になるほど基質特異性は減少し, 60℃ではほぼ消失する. 一方, ジフェニルアミン誘導体とピペラジンから成る新規シクロファンを合成した. しかし, P-置換フェノール類とのKsは小さく, 十分な錯形成を実現することはできなかった.
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