研究概要 |
本研究の目的は, 生体膜モデルである脂質二分子膜を被覆した電圧素子を用いて, 細胞膜上での味覚や嗅覚の化学受容のメカニズムを解明することにある. 今年度の研究の結果, 次のような成果を得た. 1.9MHz, ATカットの水晶発振子上に合成二分子膜化合物をキャストし, 水溶液中に浸し, キニーネ, カフェイン, ストリキニーネ等の苦味物質を添加すると, 二分子膜に苦味物質が吸着することにより発振子の振動数は低下した. 低下量より吸着量を求めた. 膜への吸着量と苦味強度の間には良い直線関係が成立した. 高分子膜たんぱくを被覆した発振子を用いても, 苦味物質はほとんど吸着しなかった. このことは苦味物質は脂質二分子膜に特異的に吸着していることを表わしている. 2.二分子膜被覆圧電素子を用いて気相中でヨノン, バニリン, スカトールなどの各種匂い物質を加えた時の膜への吸着量を発振周波数の低下量から求めた. この場合も, 膜への吸着量と匂い強度の間に良い直線関係が成立し, 二分子膜への吸着量から匂い強度の予測が可能であることがわかった. 一般的な匂い物質に限らず, 香料についても二分子膜への吸着量と調香師が求めた香りの強度の間にも良い相関が認められた. 3.苦味や匂い物質は, 二分子膜が液晶状態の時に良く吸着することがわかった. 二分子膜が結晶状態の時には膜表面に吸着することも判った. 4.以上の結果, 二分子膜被覆圧電素子を用いれば苦味や匂いの化学受容メカニズムの解明が分子レベルでできる可能性がある. また本システムは匂いや苦味のセンサーとしても有用と考えられる.
|