研究概要 |
NAD(P)Hの関与する酸化還元反応のモデル化およびその応用について研究しているが, 本年度は特に応用の面に力を入れ, 実際のNAD(P)Hの関与する酵素反応においてケトンの還元の際に不斉誘導を与える要因について研究した. 基質として用いたのは2-メチルー3-オキソブタン酸エステル(1)であり, パン酵母による1の不斉還元を検討した. この還元ではNAD(P)Hが補酵素としてはたらいている. 1は2位に不斉炭素を持ち,通常ラセミ体として存在するが, 水中特に緩衝液中ではそのラセミ化が速いことを見いだした. よって酵素反応によって1の光学異性体の内のどちらか一方(例えば1R)が他方(1S)より速く還元されても, ラセミ化の速度が還元の速度より速ければ反応の終了時まで原料である1はラセミ体として存在し, 酵素による基質の識別(1Rと1S)は常に同じ比率で行なわれることがわかった. もし, その速度の差が大きければ光学分割をやりながらラセミ体から1つのエナンチオマーを合成することが可能である. 実際還元されるのは3位のケトンであるので上手く反応が進行すれば1つの反応で2つの点に選択的な不斉誘導が可能となる. 生成物である3-ヒドロキシー2-メチルブタン酸エステルには4つの異性体が存在するが理想的にはその内の1つだけを作りだすことができる. 基質におけるエステル部分の構造を変化させ, 酵素反応による基質の異性体間の反応速度の差に及ぼす影響を調べた. その結果メチル基やエチル基では差が大きくないがオクチル基やネオペンチル基ではかなりの差があり, 結果として(2R, 3S)体が選択的に得られた. また炭素鎖の1つ少ない2-メチルー3-オキソプロピオン酸エステルでも同様のことを行ない(2R)体を選択的に得ることができた.
|