研究概要 |
自然界の無機窒素化合物であるN_2, NH_3, NO_2^-およびNO_3^-は窒素サイクルにより循環して平衡を保っている. 大多数の緑色植物やバクテリヤは空中窒素固定能を持たないために, 土壌中に存在しているNO_2^-およびNO_3^-を還元してNH_3を合成し(同化), CO_2固定回路で生成させたケトカルボン酸と反応させて, 各種のアミノ酸合成を行っている. 特に, 光合成バクテリヤはCO_2固定とNO_3^-の同化型還元に4:1の割合で電子を消費していると考えられている. また, O_2に対して不安定な嫌気性微生物はNO_3^-をN_2に還元することにより(異化, 脱窒あるいは硝酸呼吸), 生命活動に必要なエネルギーを獲得している. 生命活動に必須なこれらの還元反応には鉄イオウ蛋白であるフェレドキシンが電子伝達体として機能していることが知られている. 本研究では生体内でのフェレドキシンの機能を化学的に明らかにするために, 四鉄フェレドキシンモデル化合物である〔Fe_4S_4(SPh)_4〕^<2->を触媒とするNO_2^-の異化型還元反応にカップルしたCO_2固定反応を行った. 〔Fe_4S_4(SPh)_4〕^<2->, NO_3^-およびPhCOCH_3を含むCO_2飽和アセトニトリルをグラシーカーボン電極を用いてモレキュラーシーブ存在下, -1.25V VS SCEで定電位電解還元を行うと, N_2ならびにPhCOCH_2CO_2^-が1:7の割合で生成した. さらに, N_2の前駆体N_2OとN_2Oの前駆体N_2O_2^-が気相および液相中に検出されたことから, PhCOCH_3をプロトン源とするNO_2^-の異化型還元にカップルしたCO_2固定反応の化学量論は式(1)で示される. プロトン源をPhCOCH_3 8PhCOCH_3+2NO_2^-+8CO_2→8PhCOCH_2CO_2^-+N_2+4H_2O (1) に代えてPhC≡CH,CH_3COCH_3およびシクロヘキサノンを用いても式(1)と同様にNO_2^-の異化型還元にカップルしたCO_2固定反応が進行した. これらの反応は炭素-水素結合の開裂を伴った初めての触媒的二酸化炭素固定によるカルボン酸合成反応である.
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