研究概要 |
枯草菌の胞子形成は最も単純化された細胞分化のモデル系として分子レベルで活発な研究が行われている. 枯草菌の胞子形成は, 約50種の胞子形成遺伝子の逐次的発現によって調節されているが, 我々はこの遺伝子発現のネットワークを, 分子レベルで明らかにすることを目的に, 胞子形成過程の初期, 中期, 後期に関与している8種の胞子形成遺伝子をクローン化して解析をすすめている. 本年度はその中のひとつspoVE遺伝子について解析した. 1.spoVE遺伝子産物の同定 枯草菌のin vitro転写翻訳系(Okamoto et al,Agr,Biol,Cbem,49,1077(1985))を用いて, spoVE遺伝子産物の同定を試み, 分子量32,000の蛋白質(32k蛋白質)がspoVE遺伝子産物であることを明らかにした. 2.spoVE遺伝子の時期特異的発現と調節因子の存在 成育の各時期から調製した無細胞抽出液を用いて, 32k蛋白質の生合成をみると, 胞子形成開始後2時間(T_2)の細胞から調整した抽出液で合成された. 対数増殖期細胞の上澄液とリボソーム, T_2細胞の上澄液とリボソームを用いたヘテロの組合せ実験から, 32k蛋白質の合成を促進する活性は, T_2細胞の上澄液にあることがわかった. この調節因子は, 上澄液を55°C, 10分または60°C, 5分加熱すると活性が50%低下すること, 透析によって除かれないことから蛋白質であると予想された. 3.発現調節因子の精製 胞子形成期の細胞上澄液から, DEAE-cellulofine,DNA-celluloseカラムクロマトグラフィーにより調節因子を精製したところ, RNAポリメラーゼ画分に存在した. このことは, spoVE遺伝子の時期特異的発現は, 胞子形成期に新たに出現するRNAポリメラーゼによって行われていることを強く示唆する.
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