研究概要 |
ペルオキシソーム局在性蛋白質のこのオルガネラへの特異的な輸送は, ペルオキシソームの誘導形成における重要な素過程のひとつである. 不完全酵母Candida tropicalisのペルオキシソームを素材としてこの輸送過程を研究し得る実験系の構築を試みて以下の成果を得た. 1.クローン化したペルオキシソーム系遺伝子と特異的にハイブリドを形成する細胞由来のmRNA, またはそれらの遺伝子から試験管内の反応で合成したmRNAをアフリカツメガエルの卵母細胞に注入して, その発現産物を卵母細胞のペルオキシソームに輸送させることを企画した. 一過的に発現された産物は, 特にこのオルガネラの代表的な蛋白質である長鎖脂肪酸COA酸化酵素(PXP-4)の場合, 速かに且つ特異的に分解された. この現象自体は極めて興味深いものながら, 輸送系の構築という観点からはこの系が満足すべきものでないことが明らかになった. 2.ペルオキシソーム系の遺伝子そのものを, C.tropicalisと同様に脂肪酸によって誘導されるペルオキシソームをもつ類縁酵母C.maltosaの細胞内に直接導入し, その発現産物を宿主酵母のペルオキシソームに輸送させることを試みた. 上記PXP-4の遺伝子(POX4)で形質転換した酵母細胞から精製されたペルオキシソーム画分には, 宿主のペルオキシソーム蛋白質と同等の量のPXP-4が存在しており, 外から加えたプロテアーゼに対する抵抗性から判断する限り, 宿主蛋白質と同様にペルオキシソーム内部へ輸送されていることが示された. POX4遺伝子を二分してPXP-4のN末端側1/3に相当するペプチドとC末端側2/3に相当するペプチドの輸送を比較したところ, 前者に比べて後者が著しい高能率で輸送されていることが判明した. この結果はここで構築した異種酵母内での発現・輸送系が所期の目的を満たすものであることを示している.
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