研究概要 |
卵巣は主として二種の脳下垂体ホルモン PSHおよびLHによる調節を通して卵胞の成熟・排卵・黄体形成という性周期サイクルを繰り返しており, 局所的ホルモン環境の変動に応じて遺伝的制御機構を劇的に変化させている. 本研究では特にアロマターゼ(エストロゲン合成酵素)に注目し, 性周期に応じたその発現制御を調べている. また性周期形成の本能である脳中枢系のPSH・LH分泌パターンには性差があり, こうした脳中枢系の性分化へのアロマターゼの関与についても脳の組織化学的解析を中心に検討していった. 先ず解析の手段ともなるアロマターゼ特異抗体及びcDNAの調製を行った. ヒト胎盤アロマターゼに対する抗体は幾つかの免疫化学的手法よりアロマターゼに対する高い特異性が確認できたので, これを用いてヒト胎盤cDNAライブラリーをスクリーニングした. 得られた陽性クローンの中で最長インサートを持つクローンについて制限酵素地図を作成し, DNA塩基配列を決定した. このクローンは3.3kb長のインサートを持ち, ほぼ全長に近い1263b長のオープンリーディングフレーム及び3側にはAATAAAのポリ(A)付加シグナルに続きポリ(A)鎖を持っていた. またそのcDNAのコードする蛋白質を発現させ免疫化学的手法で調べた結果, 得られたクローンは間違いなくアロマターゼcDNAであり, 本研究の分子プローブとして使えることが分かった. このcDNAをプローブとしてヒト遺伝子ライブラリーよりアロマターゼ遺伝子を単離できたので, その構造について解析している. またアロマターゼの脳中枢内局在に対する組織化学的解析については, ラットを胎児から時間を追って雌雄の脳について組織化学的染色を行ったが, 何れにおいても明確な染色像は得られなかった. ラットのアロマターゼとは抗体の免疫交差性にも問題があるかも知れないので, 現在免疫学的にヒトに近いサルの脳について調べている.
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