研究概要 |
新たに合成された分泌タンパク質は, 小胞体の膜を通過した後, ゴルジ体へと移行する. 中野らは, 酵母Saccharomyces cerevisiaeを材料に用い, この小胞体からゴルジ体への輸送にあずかるSEC12遺伝子をクローニングして, その産物タンパク質の構造と機能に関する研究を行ってきた. 興味深いことに, 温度感受性変異株sec12は, SEC12とは全く異なる遺伝子SAR1によっても, 見かけ上その異常が抑制される. このサプレッサー遺伝子SAR1は, そのgene dosageの増加によって, 独立に得られた3つのsec12allelesのts性をすべて抑制することができたが, SEC12の遺伝子破壊の致死性を抑制することはできなかった. このことから, SEC12とSAR1との間には, 遺伝子産物レベルでの相互作用が存在することが推測される. 本年度の研究では, SAR1遺伝子の構造と機能について分子遺伝学的解析を行い, 以下のことを明らかにした. (1)SAR1は, それ自身細胞増殖に必須な遺伝子である. (2)SAR1による抑制は, 一連のsec変異株の中で事実上sec12に特異的である. ただし, 弱いながらsec16にも抑制効果がみられた. (3)SAR1によるsec12の抑制は, 導入するプラスミドのコピー数によらない. (4)SAR1遺伝子は, 2つのエクソンからなり, 190個のアミノ酸からなるタンパク質をコードする. (5)DNA配列より推定されたタンパク質は, 一連のGTP結合タンパク質と有意の相同性をもつ. このSAR1遺伝子産物が, 直接小胞体-ゴルジ体間輸送に関与しているのかどうか, GTPの役割は何か, などについて現在検討を進めている.
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