研究概要 |
異常血色素(ヒトHb)の中でも酸素親和性異常を示すα_1β_2鎖接触面に変異をもつ一郡のHbと原子価雑種Hbの酸素結合の分子機構の解明を目的とした研究が以下に述べる方向から行われた. I)研究材料の迅速な高性能な分離精製技術の確立 I-1)変異Hbを有する患者赤血球から高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による迅速・高能率な異常Hb分子種の分離精製方法を確立した. これは変異が蛋白の荷電や分子会合に及ぼす影響を利用し, イオン交換カラムの溶出条件を種々工夫することによって達成され, 患者の少い血液から高能率に1時間以内に異常Hbが分離できるようになった. I-2)正常及び異常Hbの原子価雑種Hb(α^+_Xβ_2, α_2β^+_2)の作製とHPLCによる分離精製方法を確立した. この方法は従来からの単離鎖の再結合反応によるのではなく, 部分的酸化によって生成する分子種の分離によった. II)機能及び構造解析 II-1)異常HbのO_2平衡曲線を測定して状態説に当てはめて解析した. その結果, 異常HbのO_2親和性の低下, 亢進の原因は, TとRの平衡のT又はR側へのずれに加わえて, T状態のO_2親和性が正常に比べ低下又は亢進するためであった. II-2)T状態のO_2親和性がどのような分子機序で調節されているかを明らかにするために異なった親和性をもつHbのデオキシ型の鉄とヒスチジン結合の特性を共鳴ラマン分光によって測定した. そしてその結合の強さがO_2親和性を規定する確度の高い結果を得た. II-3)α_1β_2接触面を介して酸素親和性を次第に高めてゆく機構があるように思われる. これを確かめるために原子価雑種Hbを作り, 鉄-ヒスチジン結合を変えた時に, この界面の構造が共同的に変化することを紫外差スペクトルによって明らかにした.
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