研究概要 |
サーモライシンより耐熱性, 比活性共に高い耐熱性中性プロテアーゼの構造遺伝子(nprM)をB stearothermophilus MK232よりクローン化し, 塩基配列を決定した. その結果, サーモライシンとは2箇所アミノ酸置換しただけの酵素であることが判明した. これらの変異(Asp37→Asn37, Glu119→Gln119)はいずれもアミノ酸が付加されたものであり, 静電気的相互作用か水素結合の強化が耐熱性の理由ではないかと考えている. この点を明らかにするため, 本酵素(NprM)とサーモライシン(TLN)をそれぞれ結晶化し, その三次構造を精密に検討した. 精密化の結果得られたNprMの主鎖の構造をTLNと比べたところ, 両者にほとんど差のないことが明らかとなった. NprMとTLNで異なる2つの側鎖のうち, Asn37は分子の外側に突き出しており, 両酵素の物性の違いに寄与するとは考えがたい. 一方, Gln119は分子内部のβ-ターン部分に位置し, 近傍の側鎖との水素結合ネットワークに関与する. Gln119のまわりの重要と思われる水素結合の距離の比較から, NprMにおいてはTLNにおけるより強固な水素結合ネットワークが形成されていることが解った. 蛋白質では一般に活性状態と変成状態の間の自由エネルギーの差が5〜10kcal/mol程度であると言われている. 従って, NprMにおけるGln119近傍の水素結合ネットワークのわずかな変化に起因する自由エネルギー差が, 耐熱性向上の一因ではないかと考えられる.
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