研究概要 |
ラットの内側腓腹筋神経を筋の近傍で切断し, 術後の日数を追ってシナプス伝達効率を調べた. 軸索を切断されたIa感覚線維由来の興奮性シナプス後電位(EPSP)は術後翌日から増大し, 3日目に最大になることが観察された. ついでEPSPは減弱し術後2週目には正常の約1/3と著しい減少が見られた. 即ち, Ia感覚線維の末梢側の軸策が切断されると初期のEPSP増大ついで減弱とシナプスの伝達効率が2相性に変化することが見い出された. 術後のEPSP増大はアクチノマイシンD投与により阻止された. 軸索切断後の2相性の伝達効率の変化は軸索損傷という刺激に対する感覚細胞の反応(axon Reaction)の結果である可能性を以下の様に検討した. 神経に触れることなく神経の電気的活動発生を抑えるために, ラットの脊髄を脳髄のレベルで切断した. 術後後肢の動きは認められず, 感覚線維に電気的活動の発生はないと思われたが, 予想に反して, 脊髄切断後3日目のEPSPは正常と変わらなかった. 脊髄切断後の動物の行動を詳細に観察すると, 後肢の自発的な動きは認められないものの, 下肢と足が屈曲位にあることがしばしば観察された. 下肢と足が屈曲位にあると腓腹筋が受動的に伸展され, 腓腹筋を支配するIa感覚線維はdisuseでないと考えられる. そこでこの受動的な電気的活動発生を抑える目的で, 脊髄を切断し更に下肢にプラスチックのチューブを装着し下肢と足が伸展位にあるように固定したところ, EPSPは軸索切断後3日目と同程度に増大した. 即ち, この結果は, 軸索切断後のシナプス伝達効率増強は軸索反応によるものではないことを示し, 仮説(神経の電気的活動の消失とある種の因子の存在)を支持する.
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